ゴルフ会員権の相続税評価は、取引相場の有無と、株式・預託金等の権利から計算する。証書の額面や購入額、相続人がプレーするかどうかだけでは決まらない。相続税の評価額と、売却して使える現金も別の数字である。
架空の家族で考えよう。父の和夫が亡くなり、娘の絵里が、ゴルフ会員権の証書を見つけた。
兄の隆平はゴルフを続けたいが、絵里は、使わない財産なら売って分けたい。証書には預託金額があるものの、今すぐ返るのか、相場に含まれるのか分からなかった。
二人は、どちらが引き継ぐかを決める前に、死亡日の権利と評価、売却や退会の条件を別々に確認することにした。同じ会員権でも、どの数字を使うかで話の意味が変わる。
ゴルフ会員権は、財産評価基本通達211に従って評価する。取引相場があるか、株式や預託金等があるか、いつ返還を受けられるかで、計算が変わる。
証書があれば、一律に相場の70%とするわけではない。
まず会員権の内容と相続開始時の状態を確認し、類型を特定してから評価額を計算する。申告までに、証書・契約書・会則・相場資料・運営会社への照会結果を揃えておく。
死亡日の価格と権利の内容を確認
相続税法22条は、相続で受け継いだ財産を、原則として取得時の時価で評価すると定めている。ゴルフ会員権も例外ではない。
基準にするのは、相続の場合、その人が亡くなった日の価格だ。この日を、課税時期という。
購入額や、今日の業者の表示価格ではない。十年前に高く買った会員権も、最近値上がりした会員権も、死亡日の相場を確かめる。
会員権の名前だけでは、計算できない。証書、入会契約書、会則、預託金証書、株券、年会費の明細、運営会社の通知等を集めよう。
相続開始時に譲渡できたか、取引相場があるか、会員には株式の所有が必要かを調べる。預託金を返してもらえるか、いつ返るかも確かめてから、計算方法を選ぶ。
相場がある場合:70%と預託金の確認
財産評価基本通達211は、取引相場のある会員権について、課税時期における通常の取引価格の70%で評価すると定めている。
70%を掛ける前に、預託金の扱いを確かめよう。預託金は、入会時等に預けたお金だ。
一定期間後に返還を受ける場合の「複利現価」は、返るまでの期間と利率を使い、将来返るお金を今の価値に直した額をいう。
- 取引価格に預託金等が含まれているか:含まれていない預託金等があり、課税時期に直ちに返還を受けられる場合は、会則等に基づく返還額を加算する。一定期間後に返還を受けられる場合は、返還を受けられる金額を、その日までの期間に応じた基準年利率で複利現価にした額を加算する。
- 「預託金の額面を必ず全額加える」という処理はできない:返還請求権の有無、据置期間、条件変更、民事再生等の状況を、契約と客観資料で確認してから判断する。「経営状態が悪ければ必ずゼロ」という処理も同様に、根拠なく決めることはできない。
そもそも、取引相場があるといえるかも、確認が必要だ。
一つの業者の表示価格だけで決めない。死亡日前後の売買相場、複数業者の売り・買いの提示、実際の売買情報、名義書換の停止等を、資料として残す。
死亡時の通常の取引価格が300万円で、預託金等もすべて含まれ、別に加える預託金等はないと仮定しよう。
300万円×70%=210万円が評価額になる。210万円が、納める相続税ではない。
後日300万円で売り、実際に払う売却費用等が20万円なら、現金差額は280万円になる、という例も考えられる。
死亡日の評価210万円と、後日の現金280万円は違う数字だ。この差額が、そのまま利益や所得になる計算でもない。価格・費用は説明用の仮定で、実際の相場や手数料ではない。
別の契約で、相場300万円に含まれない預託金80万円があるとしよう。死亡時に直ちに80万円の返還を受けられるなら、210万円+80万円=290万円が評価額になる。
同じ預託金を二重に数えないよう、先に、相場に含まれているかを確かめる。
どちらも、死亡時の通常の取引価格が300万円という仮定だ。条件の違う二つの会員権を比べる例であり、好きな計算を選べるわけではない。
300万円 × 70%
= 210万円
別に足す預託金等はない。同じ預託金を、もう一度加えない。
300万円 × 70% + 80万円
= 290万円
80万円は相場に含まれず、死亡時に直ちに返還を受けられる契約の例だ。
210万円も290万円も会員権の評価額で、相続税額ではない。返還が一定期間後なら、その時期までの期間と適用利率による評価を確認する。実際の相場・返還額・税額を保証する図ではない。
相場なし:株式と預託金で区分
取引相場がなくても、評価額が自動でゼロになるわけではない。会員権に、どんな権利が含まれるかで、方法が変わる。
分かれ目は、株式と預託金の組み合わせだ。
株式の所有が会員の条件
株式を持つことが会員の条件なら、まず、その株式の価額を評価する。相場のない株式の評価方法が、基本になる。
株式の方法は、会社の規模や株主の区分等で変わるため、別に確認する。
株式と預託金の両方が必要
株式価額と、返還時期に応じて評価した預託金等の合計が評価額になる。株式と預託金、それぞれを別々に計算して足し合わせる。
預託金だけが会員の条件
株式を持つ必要はなく、預託金を預けることが会員の条件なら、返還時期に応じて評価した預託金等の額を使う。
ここで一度、手元の証書を見てほしい。「株主」という言葉が出てくるか。「預託金」という言葉が出てくるか。どちらも出てこなければ、次の問いへ進む。
株式は不要、譲渡できない、返還される預託金等もなく、単にそのゴルフ場でプレーできるだけ。このような会員権は、財産評価基本通達211では評価しない。
証書が一枚あるだけで、必ず課税価格が生じるわけでもない。会則の条件を確かめよう。
相場がなくても、預託金等を調べる
取引相場のない会員権について、もう一つ確認しておきたいことがある。相場がない=財産的価値がない、という結論は出ない。
取引相場がなくても、返還を受けられる預託金等や株式があれば、その内容に応じた評価が必要になる。返還を受けられる時期、金額と条件を規約・通知などから確認する。
会員権の内容、預託金の返還条件、課税時期の状態を個別に確認して類型を選ぶ。経営状態が悪いという印象だけで評価を零にせず、民事再生や権利変更の資料を確認する。
絵里は「相場がないなら、税金の評価もないのでは」と考えた。だが、会則には、預託金を返してもらう条件が残っていた。
隆平が施設を使いたいことと、返還を求める権利等に財産価値があることは、別だ。証書を財産一覧から外す前に、権利の内容と返還時期を確かめたい。
申告までの確認の順番
どの計算を使うかは、会員権の内容から決める。資料集めと確認の順番を並べておこう。
- 証書・契約書・会則・年会費資料からゴルフ場と運営会社を特定する
- 相続開始時の会員資格、譲渡・名義書換、退会、預託金返還条件を運営会社に照会する
- 取引相場の有無と、相場に預託金等が含まれるかを確認する(複数業者の気配・成約情報・名義書換停止の有無も資料として残す)
- 取引相場がなければ、株式と預託金の有無を分けて類型を確定し、それぞれの評価方法を適用する
- 照会書、相場表、計算根拠を保存し、財産目録と相続税申告に反映する
- 承継・売却・退会の手続と、相続人同士の帰属を別に決める(名義変更できるかどうかや退会手続は会則・契約の問題であり、税務評価と同じ結論になるとは限らない)
基準年利率は、国税庁が定期的に公表している。将来返る預託金等の複利現価を計算する時は、課税時期に適用する数値を使う。
民事再生等により預託金の権利が変わった場合は、資料と具体的な計算方法を、税理士へ確認しよう。
証書から運営会社へ照会する
証書を見つけたら、ゴルフ場の名前と会員番号から、運営会社を調べる。相続開始時の会員資格と、預託金の返還条件を照会しよう。
回答を待つ間にも、手元の資料と相場の調査は進められる。権利の内容を確かめ、対応する計算方法を選ぶ。
名義変更・退会・売却の手続についてはゴルフ会員権を相続したときの手続で整理している。財産全体の調査と申告の流れは相続手続の流れも参照してほしい。
申告期限が近いのに内容が分からない場合は、手元の証書、契約書、会則、照会で分かったことをまとめ、税理士へ相談しよう。
どの方法を使うか判断できないことも、相談して整理できる。資料が全部そろうまで、相談を待つ必要はない。
絵里と隆平は、死亡日の評価資料と、売却・引継ぎ後の現金収支を、別の欄に記すことにした。
税では、相続時点の権利を評価する。分割では、家族が合意する価額と管理負担を確かめる。税務評価だけで、兄が妹に払う額が自動的に決まるわけではない。
計算方法は国税庁No.4647で確認できる。先に計算式を選ぶのではなく、会則と照会結果に合う類型から判断したい。
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
会員権は一律に相場の70%か
相場がある場合の基本だが、相場に含まれない預託金等は返還時期に応じて加算する。相場がない場合は株式と預託金等で区分する。
預託金は額面を全額加えるか
取引価格への含まれ方、返還請求権、返還金額と時期を確認する。一定期間後の返還は複利現価で評価する。
相場がないなら評価は零か
株式や返還される預託金等があれば評価対象となる。相場がないことと財産的価値がないことは別だ。
プレーだけの権利はどう扱うか
株式が不要、譲渡できない、返還される預託金等がなく単にプレーできるものは評価しない。会則の条件を確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



