土地を多く持つ家族の相続対策では、不動産の評価額、実際の収入、売却しやすさ、納税までに使える現金を分けて確認する。土地が多いことだけで税額や資金不足が決まるわけではないが、財産の大半が不動産なら、現金の準備を並行して考える必要がある。
架空の家族で考えよう。正雄は、自宅、貸地、アパート、農地を持つ。長男の聡は土地を残したい。長女の麻衣は管理を続けられず、将来は現金で受け取りたい。
妻の芳子は、地代や家賃を生活費にしている。税金のために、収入源を失うことが心配だった。
物件ごとの権利、価額、収支と、家族に必要な現金を整理しよう。
節税の試算と、実行できる引継ぎ方を、一緒に検討する。土地を守る案を、最初から一つに決めない。
最初に、物件ごとの一覧を作る
登記、固定資産税の課税明細、契約書等をそろえる。所在地・地番、面積、所有持分、使い方、借入れ、貸付先や管理者を記録しよう。
市区町村ごとの名寄帳も手がかりになる。名寄帳は、名義人ごとに固定資産をまとめた資料だ。それだけで、全国の全財産が確定するわけではない。
父が使う土地でも、父の所有とは限らない。親族名義の土地、共有地、借地等が入ることもある。
土地と建物の名義も、別々に調べる。固定資産税がかからない物件や、資料から漏れた物件もないか確かめよう。
一覧には、相続税評価、売却査定、年間収支、返済・納税等に使える現金の四欄を設ける。
一つの「資産額」にまとめると、税金は払えても、生活費が残らない等の問題を見落としやすい。
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土地の使い方・現況・権利を確認
宅地は、路線価方式・倍率方式等で評価する。
路線価方式は、地区、奥行、間口、形、接する道路等を反映する。減額だけでなく、必要な加算も調べる。
倍率方式は、固定資産税評価額に所定の倍率を掛ける。通知書の税額や課税標準額とは、取り違えない。
評価の単位は、登記の筆数と必ず一致するわけではない。筆は、登記で土地を区切る単位だ。
使い方が複数ある土地や、分割する土地は、利用と取得の状況等も調べる。形が悪い、広いという感覚だけで、自由に減額率は選べない。
貸地は、普通借地権・定期借地権等の契約を確かめる。
アパートの敷地は貸家建付地の評価と賃貸割合、無償で貸す使用貸借は別の取扱いを調べる。
「貸している」というだけで、全部を同じ式にはできない。
農地や山林は、種類や区分に応じ、倍率や宅地に比べて評価する方法等を調べる。
地方の土地なら、全部が倍率方式とは限らない。登記地目だけでなく、死亡時の現況を確かめる。山林の立木等、土地とは別に評価する財産もある。
正雄家でも、自宅、貸地、農地で、評価資料は違う。聡は場所を整理し、麻衣は不足する契約書を調べた。
家族が知っているつもりの土地も、評価の前提を一つずつ確かめたい。
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宅地の特例は、引き継ぐ人の条件も確認
小規模宅地等の特例は、一定の住まいや事業の基盤を引き継ぐ負担を軽くするため、宅地等の課税価格を減らす制度だ。
主な区分は、特定居住用が330平方メートルまで80%、特定事業用等が400平方メートルまで80%、貸付事業用が200平方メートルまで50%となる。
使い方、受け取る人、居住や事業の継続、保有、分割と申告等を確かめる。
配偶者には、取得者本人の居住・保有継続条件がない。一方、所定の同居親族等には条件がある。全員を、同じ条件で判断しない。
評価6,000万円、面積200平方メートルの自宅敷地が、全部、特定居住用の条件を満たすと仮定しよう。
特例後の価額は1,200万円だ。減った4,800万円は土地の課税価格で、税額そのものが、同額減るわけではない。
自宅と貸付用を一緒に選ぶ時は、所定の面積調整がある。全部の物件で、それぞれの上限を足せるわけではない。
貸付けを始めた時期による除外と例外もある。直前に使い方を変えれば、必ず条件を満たせるものでもない。
芳子が自宅を取る案、聡が取る案、賃貸敷地を渡す相手で、条件も生活も違う。
税額だけで名義を決めず、住居、地代・家賃を受け取る人、将来の管理も考えよう。
土地の価額と、納税用の現金を分ける
基礎控除は、3,000万円+600万円×法定相続人の数だ。法定相続人は、法律で相続人になると決められた人をいう。
正雄の法定相続人が芳子と子二人なら、4,800万円となる。財産からこれを引いた差額が、そのまま納税額になるわけではない。
全財産や債務等から課税価格を求める。債務は、借金等の支払義務だ。
法定相続分による総額計算、実際の取得割合、税額控除等を経て税額を出す。
法定相続分は、法律で決められた相続の割合だ。将来の価格・制度・家族構成で試算は変わる。前提を記録し、見直そう。
納税資金は、土地の評価額とは別に確かめる。生活費等を残したうえで、期限までに払えるかを比べよう。
資金計画の説明用に、家族の相続税を合計600万円、預金を合計500万円と置く。税額は特定の土地価格から計算した数字ではない。
預金:500万円
当面の生活等に残す分:200万円
↓
納税へ回せるのは300万円
200万円は、まだ使っていない。生活のため、預金として残す仮定だ。
納税額:600万円
納税へ回す現金:300万円
↓
不足は300万円
土地の評価が1億円以上あっても、それが今すぐ払える現金とは限らない。
ほかの入出金を省いた家族合計の例だ。実際には、納税する本人ごとに、取得して使える預金と支払期限を合わせる。別の家族の預金を、自由に移せる前提にはしない。
この例は、家族全体の不足を見るためのものだ。
実際の準備では、誰がいくら納め、その人がいくら預金を取得して使えるかを調べる。家族合計で足りても、必要な人へ、自動的に移せるとは限らない。
家賃・地代と、残る現金を分ける
家賃・地代が多くても、管理費、修繕、固定資産税、借入返済等の支出がある。
収入の全部を、そのまま生活費や納税へ回せるとは見込まない。
年収入500万円、現金で払う運営費150万円、元金と利息の返済250万円なら、現金の差額は100万円だ。ほかの税や大型修繕等を考える前の仮定である。
所得税の所得計算とは違う。減価償却は、その年に現金が出る費用とは限らず、借入元金の返済も、同じようには経費にならない。
芳子が今の収入を相続後も受け取れるかは、取得者と分割内容で変わる。
聡が不動産を取り、母の生活費を別に負担する案なら、額、方法、継続できる資金を確かめる。
空室、修繕の重なり、売却が遅れる場合も試算しよう。
節税のために預金を建築費等へ使えば、手元の現金が減る面もある。評価の差だけで、実行は決めない。
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農地の納税猶予は、すぐ免除ではない
一定の農地等を引き継ぎ、農業を続けるか、所定の特定貸付け等をする場合は、納税猶予を検討する。
農地等の価額のうち、農業投資価格を超える部分に対応する相続税を、一定の条件で、待ってもらう制度だ。農業投資価格は、農地等をずっと農業に使う前提の価格である。
全部の農地の価額や、相続税全体をゼロにする制度ではない。
亡くなった人、農業相続人、農地等の条件に加え、期限内の分割・申告、担保等を確かめる。
適用後も、継続届出等を管理する。農業相続人の死亡等、免除の条件に当たるまでは、「猶予」と「免除」を分けて考えよう。
売却、転用、耕作の放棄等で、猶予の全部か一部が打ち切られ、税額と利子税を払う場合がある。転用は、農地を農業以外に使うことだ。
後から誰に貸しても続くわけではない。農業委員会、税務署・税理士等に、実行する内容と届出を、先に確かめよう。
聡が農地を残したくても、自分で耕作できるか、制度に合う貸付けができるかは、別の問題だ。
麻衣も、将来売れる余地を残す案と、長期の条件を受け入れる案を比べることにした。
分割・遺言は、資金と管理も考える
一人が土地を取り代償金を払う、物件ごとに取得者を分ける、売って分ける、共有する等の案がある。
代償金は、遺産を多く取る人が、ほかの相続人へ渡す調整のお金だ。各案で、使う価額、資金、収益と管理、売る時期等を比べる。
共有なら公平になるとは、限らない。修繕、貸付け、変更、売却等の内容で、必要な合意も違う。
相続が重なれば、関係者が増える。共有するなら、費用・収入の管理、決め方、将来の解消も考える。
遺言で取得者を決める時も、遺留分、債務、ほかの人へ払う資金を確かめる。遺留分は、一定の近い家族に保障された、最低限の取り分だ。
公正証書等の方式だけで、全部の不満や、実行上の問題はなくならない。土地一覧、希望、試算を基に、内容を検討しよう。
遺産分割協議の進め方|まとまらない時の手順と注意点
遺産分割協議は、相続人全員の有効な合意で、誰がどの財産を受け取るかを決める話合い…

物件調査と、期限までの準備を進める
申告・納付は、原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内だ。分割が済まなくても、自動的には延びない。
未分割での申告・納付、後から土地の特例等を使うための分割見込書、更正の請求等の期限を管理する。
更正の請求は、多く申告した税額等を直すよう、税務署へ求める手続だ。
売却で納税する案なら、権利、買い手、契約、引渡し、代金が入るまでの手順を調べる。
現金で払えなければ、年払いにする延納や、相続財産で納める物納の条件と申請期限も確かめる。土地があれば、必ず物納できるわけではない。
聡は物件と契約、麻衣は預金と費用、芳子は生活費と住まいの希望を整理する。
土地を残すか売るかを決める前に、家族が払い、管理し、暮らせる案を比べる材料をそろえたい。
現行の宅地特例は国税庁No.4124、農地猶予はNo.4147で確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、生前の全体計画の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
地主の相続税は必ず高くなるか
土地の価額だけでは決まらない。全財産、債務、基礎控除、特例や税額控除等を確認し、各人の受け取る内容から税額を試算する。
相続後でも小規模宅地等の特例を使えるか
利用・取得者・継続・面積等を確認し、原則として分割して申告する。未分割なら分割見込書等と後の分割、更正の請求などを確認する。
農地には特別な制度があるか
一定の農地等に納税猶予がある。営農や特定貸付け等、期限内申告・担保等の条件と継続管理があり、直ちに免除になるものではない。
相続税の期限はいつか
通常は相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。分割が終わらなくても自動的には延びない。
分割がまとまらなければどうするか
資料と希望を共有し、税務の期限と資金を先に管理する。協議が難しければ調停等を検討し、登記など別の手続の期限も確認する。



