相続の弁護士交渉とは|依頼範囲・費用・期限・調停移行

相続の弁護士交渉とは|依頼範囲・費用・期限・調停移行

相続の弁護士交渉は、弁護士が相続人の代理人として、ほかの相続人や代理人と、解決の条件を話し合う仕事だ(弁護士法3条)。

遺産の範囲・価額・分け方、贈与による取り分の調整、特別な貢献の評価、遺留分等を整理する。交渉で、相手に合意を強制することはできない。

説明用の架空の家族で考えよう。父が亡くなり、姉の綾子は実家に住み続けたい。弟の航は、自分の取り分を現金で受け取りたい。

綾子は弁護士への依頼を考え、航は、家の評価資料と支払方法を確かめたいと言う。希望、証拠、資金と、弁護士に任せる仕事を分けて考えよう。

見積書に「相続交渉」とあっても、財産調査、遺留分の通知、調停申立てまで含むとは限らない。

遺留分は、一定の近い家族に保障された、最低限の取り分だ。解決したい問題と、依頼する仕事を、一つずつ対応させよう。

依頼前は、取得したい財産だけでなく、任せる仕事の範囲、意見が違う点、証拠、期限も確かめる。

調停へ切り替える条件と、追加費用が発生する条件も、書面で確認してから契約しよう。

問題ごとに、交渉の相手と手続を分ける

相続のもめごとには、違う手続が重なることがある。

遺産の分け方、生前に引き出された預金の返還、遺言の有効性は、別の問題だ。相手、請求の根拠、交渉でまとまらない時の進み先も違う。

主な依頼の場合を整理すると、次のようになる。

  • 遺産分割:相続人・遺産の範囲、評価、特別受益、寄与分、取得方法を整理し、まとまらなければ家庭裁判所の遺産分割調停・審判へ進む
  • 遺留分侵害額請求:権利者、基礎財産、侵害額、請求の意思表示、支払方法を調整し、まとまらなければ調停または訴訟へ進む
  • 使い道の分からないお金等:取引履歴、払戻しの時期・権限・使途、返還根拠を確認し、争点に応じて民事訴訟等へ進む
  • 遺言の有効性:方式、遺言能力、筆跡、作成経緯、証拠を整理し、まとまらなければ遺言無効確認訴訟等へ進む

分割の話合いで、使い道の分からないお金や遺言の争いも、一括で解決できる場合はある。

ただし、家庭裁判所の分割審判で判断できる範囲と、同じではない。問題ごとに、相手、請求内容、扱う裁判所と期限を分けて確かめる。

相続で弁護士に相談するタイミングでは、どの段階で動き始めるかを整理している。

委任契約書で確認する五つの欄

相談しただけで、相続の全部を弁護士が代理するわけではない。

委任契約書と委任状で、誰の相続か、相手、財産、請求内容と、手続の範囲を確かめる。

家事事件手続法24条には、家庭裁判所の代理人が、申立ての取下げや即時抗告等をする時、特別の委任を必要とする定めがある。即時抗告は、審判等への不服申立てだ。

一定の合意・調停案の受諾等にも定めがあるが、調停手続の委任がある場合の例外もある。私的な交渉と裁判所の手続を、同じ依頼範囲と決めつけない。移る時点で、追加の委任と費用を確かめよう。

具体的に確かめておきたい項目は次の五つだ。

  • 相手方への受任通知をいつ送るか
  • 財産調査・評価を依頼に含めるか
  • 提案書を出す前に本人の承認を得るか
  • 調停申立て、審判、抗告、関連訴訟を含むか
  • 税理士・司法書士の作業と費用を含むか

合意前に本人確認をする条件も、契約書の段階で言葉にしておく。遺産分割の弁護士費用と委任契約では、契約書の読み方と費用の確認点を詳しく扱っている。

交渉前に、資料と希望を整理する

弁護士は、法的な主張と証拠をつなげて交渉する。依頼者側で整理しておくと、その作業が動きやすくなる。

戸籍、遺言、財産目録、残高証明、取引履歴、不動産の登記・評価資料を集める。贈与資料、介護記録、相手との連絡記録、相続税申告書も、日付順に整理しよう。

まだ確かめていない財産と、相手の説明に異議がある項目は、別の欄にする。

「法定相続分を確保したい」だけでは、分け方は決まらない。法定相続分は、法律で決められた相続の割合だ。

どの財産を誰が取るか、特別受益や寄与分の調整も必要かを確かめる。特別受益は、一定の贈与等を取り分に反映する仕組み、寄与分は、遺産を守り増やす特別な貢献に応じた上乗せだ。

欲しい財産、売却できるか、代償金を払えるか、最低条件を整理しよう。代償金は、遺産を多く取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金である。早さと金額のどちらを優先するかも考える。

綾子が家を取り、航が預金を取る案を、同じ取り分になるよう考えてみよう。綾子が代償金を払うための資金も、別に必要だ。

家を姉が取るなら、調整のお金も必要

相続人は子の綾子と航だけとする。遺産は家2,400万円と預金800万円、合計3,200万円。遺言・債務・特別受益等の調整はなく、同じ1,600万円ずつへそろえる説明用の仮定だ。家の価額は、分割の合意に使う額である。

姉の綾子:家を取る

家:2,400万円
− 航へ払う代償金:800万円
↓
差引き1,600万円

代償金は、遺産の預金とは別に、自分の資金800万円を用意するものとする。

弟の航:預金と代償金を取る

遺産の預金:800万円
+ 綾子からの代償金:800万円
↓
合計1,600万円

遺産の預金800万円だけでは、1,600万円に届かない。

税額の計算ではない。綾子が800万円を用意できるか、払う時期と方法を含め、実行できる案か確かめる。

この価額は、相続税の評価額や税額ではない。

綾子が800万円を払えなければ、分割払い、融資、売却等を、期限と合わせて比べる。弁護士への依頼だけで、お金や相手の同意が生まれるわけではない。権利と、実行できる条件を調整する。

費用は、仕事の範囲と総額を確認

弁護士費用は、各事務所の報酬基準と委任契約で定まる。全国共通の公定相場はない。

相談料、着手金、報酬金、日当、実費、評価・鑑定費用を確かめる。調停・審判・抗告・訴訟へ移る時の追加費用と、消費税も確認しよう。

報酬の基準になる「経済的利益」を、どう計算するかも大切だ。着手金と報酬金の二行だけでは、総額は分からない。

経済的利益は、遺産総額、相手の提示から増えた額、実際の取得額等、契約で基準が違う。

同じ料率でも、基準の金額が違えば報酬は変わる。今の交渉と、調停へ移った場合の見積りを、分けて書面で確かめよう。

協議がまとまらなければ、調停・審判へ進む

分割の協議がまとまらない、または協議できない時は、家庭裁判所に分割を求められる(民法907条)。

調停では、中立な調停委員会が双方の事情と資料を確かめ、合意を目指す。遺産分割調停が不成立なら、原則、審判へ移り、裁判官が資料と調査結果に基づいて判断する。

交渉の段階から、未提出の資料、争いのない点、意見が違う点、評価の基準を整理しよう。

調停へ切り替える日も考えておけば、長く返事を待ち続ける前に、次の動きを判断しやすい。

相続の示談交渉と調停への切替では、切り替えの判断基準を整理している。遺産分割調停で弁護士が必要かも、調停段階の委任範囲を考える際の参考になる。

航が家の評価に異議を述べるなら、資料、評価する時点と現況を確かめる。綾子は、返事を待つ期限と、調停へ移る条件を、弁護士と共有する。

資料が共有できないのか、価格が違うのか、支払方法が難しいのか。理由によって、次の提案は変わる。

交渉中も、三つの期限は止まらない

相手の返事を待っている間も、カレンダーは動いている。少なくとも次の三つは、交渉の進捗とは切り離して管理する。

遺留分侵害額請求(民法1048条)

遺留分の権利がある人が、相続開始と、遺留分を侵害する贈与・遺贈を知った時から1年。相続開始から10年という制限もある。遺贈は、遺言で財産を渡すことだ。

分割を申し入れただけで、遺留分を請求する意思を示したことになるとは限らない。別の通知が必要か、確かめよう。

遺言が無効だと争うことと、予備的に遺留分も請求することは、分けて確かめる。

遺言について交渉しているだけでは、期限は守れない。期間内に請求の意思が相手へ届くよう、通知の内容と、届いた証拠を残そう。

相続放棄(民法915条)

原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月だ。

承認するか放棄するか判断できない時は、期間内に、家庭裁判所へ期間を延ばす申立てを検討する。

相続税の申告・納付

申告が必要なら、原則として死亡を知った日の翌日から10か月。交渉中・調停中であっても期限は延びない。未分割のまま申告・納税が必要になる場合の対応については、調停中の相続税申告と未分割申告で詳しく扱っている。

依頼前に、手元で準備する

見積書の「相続交渉」を、財産調査、提案・返答、遺留分の通知、調停への移行に分けて確かめる。

含まれない仕事は、誰がいつ行い、追加でいくらかかるかを決めよう。交渉を続ける条件と、調停へ進む条件も共有する。

まず、死亡日と資料の日付を確かめ、戸籍、遺言、財産目録、取引・連絡記録を、日付順に並べよう。未確認の財産と、異議のある項目は分ける。

次に、欲しい財産、最低条件、期限までの余裕と優先順位を、紙へ書く。この二つがあると、相談で整理する材料になる。

どこから始めるか迷ったら、そろった資料、不足する資料と、今いちばん困っていることを伝えよう。

関連記事

綾子は、家を取りたい希望に加え、用意できる現金と生活費を示す。航は、評価資料と支払時期の希望を伝える。

合意できる保証はない。それでも、仮の代償金800万円を払えるかまで確かめれば、交渉を続けるか、調停へ進むかを考える材料になる。

ほかにも確認する手続がある場合は、遺産分割・調停・紛争の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

相手方に弁護士がついたら必ず依頼するか

法律上の義務ではない。請求内容、争点、証拠、期限、自分で書面対応できるかを踏まえ、早めの法律相談を検討する。

弁護士が入れば遺産分割を成立させられるか

相手方の合意を強制することはできない。協議がまとまらない場合は家庭裁判所の調停・審判を検討する。

弁護士費用はいくらか

全国一律ではない。着手金・報酬金、経済的利益の算定、実費・日当、調停や審判へ移る追加費用を委任契約書と見積書で確認する。

遺産分割を申し入れれば遺留分の1年期限は守れるか

同じとは限らない。遺留分侵害額請求をする意思を明確に示し、期間内に相手へ届いたと立証できる方法で通知する必要がある。

交渉中なら相続税申告を待てるか

交渉中でも申告期限は原則として延びない。申告が必要なら原則10か月以内に、未分割の財産を法定相続分等で計算して申告・納税する。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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