相続放棄しても香典は受け取れる?相続財産・葬儀費用との違い

香典は、通常、亡くなった人が生前に所有していた財産ではなく、葬儀に際して喪主・遺族等へ贈られる金品です。そのため、香典を受け取ったことだけで、相続財産を処分したことになるとは通常考えません。

相続放棄を検討しているときは、香典、遺族自身のお金、被相続人の現金・預金を分けて管理します。被相続人の財産から葬儀費用を支払う場合は、下級審裁判例上許容された例がありますが、金額・内容・財産状況によるため一律に安全とはいえません。

相続放棄をしても、香典は通常受け取れる

民法921条1号は、相続人が相続財産の全部または一部を処分した場合、原則として単純承認をしたものとみなします。相続放棄を検討中に注意すべきなのは、被相続人の預金を引き出して私的に使う、財産を売却する、遺産分割協議をするなど、相続財産を相続人として処分する行為です。

香典は、被相続人が死亡時に所有していた相続財産ではありません。東京地裁昭和61年1月28日判決は、香典を、葬式費用に充てる目的で葬式の主宰者である喪主に贈与されるものと整理しました。喪主・祭祀主宰者・遺族の誰に帰属するかについて見解の違いや個別事情はありますが、少なくとも被相続人の遺産そのものではないという整理が一般的です。

したがって、香典の受領自体を理由に相続放棄が当然にできなくなるとは考えにくいです。ただし、誰宛ての金員か不明な弔慰金、被相続人の勤務先から支給される死亡退職金、被相続人宛ての未収金などは、名称だけで判断せず、支給規程・贈与者の意思・受取人指定を確認します。

香典と相続財産を混ぜない管理方法

  • 香典帳に、贈与者、金額、受領日を記録する
  • 香典専用の封筒・口座等で、被相続人の現金・預金と分ける
  • 葬儀費用、香典返し、法要費用の領収書を分けて保存する
  • 被相続人の預金を引き出す前に、相続放棄への影響を確認する

「葬儀関係だから全部同じお金」と扱うと、後から、誰の財産を何に使ったのか説明できなくなります。香典と遺産を区別した記録が、相続放棄と相続税の両方で重要です。

香典には贈与税がかかるか

国税庁No.4405は、個人から受ける香典等で社会通念上相当と認められるものを、贈与税がかからない財産として挙げています。国税庁の質疑応答事例も、社会通念上相当な弔慰金等は課税されないと説明しています。

これは「香典と名付ければ金額に関係なく非課税」という意味ではありません。贈与者との関係、目的、金額、一般的な慣行などから社会通念上相当かを判断します。勤務先等から支給される弔慰金は、実質が死亡退職手当金等に当たる部分や、国税庁の基準を超える部分について相続税の対象になることもあります。

葬儀費用の民事上の負担と相続税の控除は別問題

葬儀費用を最終的に誰が負担するかについては、喪主負担、葬儀を契約・主宰した人の負担、相続財産からの支出など、裁判例・学説が分かれています。相続人全員の負担になる、遺産から当然に支払える、と一律には決まりません。

一方、相続税法13条と国税庁No.4129は、一定の相続人・包括受遺者が実際に負担した葬式費用を、遺産総額から控除できるとしています。控除対象には、火葬・埋葬・納骨、遺体・遺骨の回送、通夜など通常葬式に欠かせない費用、読経料等が含まれます。

香典返し、墓石・墓地の購入、初七日等の法要費用は、相続税上の葬式費用に含まれません。「香典で賄った部分は必ず控除できない」という説明は国税庁No.4129にはありません。控除の可否は、誰がどの費用を実際に負担したか、費用の種類、証拠書類に基づいて確認します。

被相続人の財産から葬儀費用を支払うと相続放棄できないか

大阪高裁平成14年7月3日決定は、葬儀の社会的必要性や、相続財産があるのに相続人の資力不足で葬儀を行えない不合理を考慮し、相続財産から葬儀費用を支出した行為は、民法921条1号の「相続財産の処分」に当たらないと判断しました。東京地裁平成19年10月31日判決にも、遺族として葬儀を行い、その費用に相続財産を支出したことを処分に当たらないとした例があります。

ただし、これらは「あらゆる支出なら安全」という判例ではありません。葬儀の内容・金額、被相続人との関係、相続財産の額、債務超過の程度、債権者への影響などにより判断が変わります。高額な仏壇・墓石、法要、会食、私的流用まで当然に許容されるわけではありません。

相続放棄を検討している段階では、可能であれば遺族の固有財産や香典から支払い、被相続人財産から支出する前に弁護士へ確認します。すでに支出した場合は隠さず、引出日、金額、使途、領収書、残金を整理して、家庭裁判所の照会に具体的に説明します。

香典とは別に注意すべき法定単純承認

  • 被相続人の預金を生活費・買物等へ流用する
  • 不動産、車、株式、貴金属等を売却・贈与する
  • 相続債権を取り立て、回収金を自分のために使う
  • 経済的価値のある遺品を大量に持ち去る
  • 相続人として遺産分割協議を成立させる

保存行為や短期賃貸借は民法921条1号の例外ですが、処分との境界は事案によります。「少額なら必ず大丈夫」「葬儀名目なら自由に使える」と判断しないでください。

相続放棄の3か月はいつからか

相続放棄は、原則として、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所へ申述します。通常は、被相続人の死亡と、自分が法律上相続人になった事実を知った時が起算点です。

後から債務を知った日が常に新しい起算点になるわけではありません。最高裁昭和59年4月27日判決は、相続財産が全くないと信じ、調査を期待することが著しく困難で、そのように信じたことに相当な理由がある場合などに、財産の存在を認識した時等から起算する例外を示しました。

3か月以内に財産調査が終わらない場合は、期間が自動的に止まるのではなく、期間満了前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てます。

公的資料・裁判例

よくある質問

相続放棄をしても香典を受け取れますか

香典は通常、被相続人の相続財産ではなく、喪主・遺族等への贈与と整理されるため、受領だけで相続放棄が妨げられるとは通常考えません。遺産とは分けて管理してください。

香典に贈与税はかかりますか

個人から受ける香典で社会通念上相当なものは、国税庁No.4405上、贈与税がかからない財産です。名目だけでなく金額・目的・関係等から判断します。

香典返しは相続税の葬式費用控除に入りますか

入りません。国税庁No.4129は、香典返し、墓石・墓地の購入、法要費用を葬式費用に含まれないものとして挙げています。

被相続人の預金から葬儀費用を払うと相続放棄できませんか

社会的に相当な葬儀費用の支出を法定単純承認に当たらないとした下級審裁判例があります。ただし、金額・使途・財産状況によるため一律ではなく、支出前に確認が必要です。

相続放棄の3か月は死亡日からですか

原則は、死亡の事実と自分が相続人になった事実を知った時からです。後から債務を知った日が必ず起算点になるわけではなく、最高裁判例の例外要件を個別に確認します。

※本記事は一般的な情報提供を目的とするもので、個別の法律・税務判断ではありません。香典の帰属、支出内容、財産・債務の状況により結論は異なります。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

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