相続放棄と香典:香典・自己資金・遺産は別

相続放棄しても香典は受け取れる?相続財産・葬儀費用との違い

通常の香典を受け取っただけで、父や母の借金まで相続したことになるわけではない。香典は、故人が生前に持っていた財産とは区別して考える。問題は、香典、遺族のお金、故人の現金や預金を、同じ財布のように扱っていないかだ。

父の葬儀を終えた美穂は、香典帳と領収書を食卓へ置いた。母はすでに亡くなり、姉の美穂が喪主を務め、弟の健が受付を手伝っていた。父には借金があるらしく、二人は相続放棄を調べている。

健が「香典を受け取ったけど、もう放棄できないのかな」と聞いた。美穂は、葬儀社への支払のため自分の預金を使っていたが、足りない分は父の口座から出してもよいのかも迷っていた。二人の不安には、別々のお金の話が混ざっていた。

美穂と健は、制度を説明するための架空の家族で、実際の相談を紹介したものではない。金額も説明のための仮定であり、放棄の有効性をこの例だけで判断するものではない。

通常の香典は、故人の相続財産とは別に扱う

香典は一般に、葬儀に際して喪主や遺族等へ贈られる金品だ。故人が生前に持っていた財産を相続するものとは違う。そのため、通常の香典を受け取ること自体は、民法921条1号の「相続財産の処分」と同じには扱わない。

ただし、香典が最終的に誰のものになるかは、贈った人の意思、葬儀を主宰した人、家族間の合意等を確認する必要がある。遺産ではないからといって、受け取った家族の誰かが自由に独占してよいと決めつけることもできない。

故人への未払金を受け取った場合や、勤務先から死亡退職金・弔慰金が支給された場合は、通常の香典と一括りにしない。支給規程や受取人、名目と実質を確認する。

健の職場の人が、父の死後に「葬儀の足しに」と遺族へ渡したお金と、父が生きている間に働いて貯めた預金は、入ってきた経緯が違う。どちらも葬儀の近くで動いたからといって、同じ父の遺産にはならない。

ただし「誰の香典か」は、受付で現金を数えた人だけで決まるものでもない。健が受付を手伝ったから自分の取り分になる、美穂が喪主だから事情を問わず自由に全部もらえる、と決めつけず、贈った人の意思や家族の合意を確認する。

香典と遺産を分けて記録する

お金の種類 残しておきたい記録
香典 贈った人、金額、受取日、保管と支出の状況
遺族自身のお金 誰が何を立て替え、どの口座から払ったか
故人の現金・預金 出金日、金額、支払先、使途、残金
勤務先等からの支給金 支給規程、通知書、受取人、支給額の内訳

香典帳と領収書を対応させ、故人の現金や預金とは分けて管理する。専用の封筒や記録を使うだけでも、後からお金の出どころを説明しやすくなる。「葬儀に使ったお金」という合計だけでは、誰の財産を使ったか分からなくなってしまう。

銀行口座が使えるかどうかも、相続放棄の判断とは別だ。銀行口座の凍結と払戻しや凍結解除に必要な書類を調べるときも、放棄を検討していることを先に伝える。

例えば、美穂たちが受け取った通常の香典が40万円、香典返しに10万円、葬儀社等への支払が120万円だったとする。仮に家族間で使い方が確認でき、残る香典30万円を葬儀代へ使い、ほかの90万円を美穂自身の預金から払ったなら、父の預金を使ったこととは区別できる。

この90万円は「美穂が負担したお金」を整理する数字で、弟が自動的に半分返すと決まった額でも、相続税の控除額でもない。控除できる項目や負担者の条件は、別に調べる。二人は、香典の入金、返礼、葬儀代、自分の預金の出金を四つの欄に分けた。

香典の贈与税は、社会通念上相当かを確認する

国税庁No.4405は、個人から受ける香典等のうち、社会通念上相当と認められるものを、贈与税がかからないものとして挙げている。したがって、通常の香典について、受領したというだけで直ちに贈与税がかかるわけではない。

これは「香典という名目なら、いくらでも非課税」という意味ではない。贈った人との関係、目的、金額、慣行などから判断する。高額な金銭や、ほかの目的の資金が含まれる場合には、名目だけで処理しないようにする。

勤務先から支給される弔慰金等は、実質が退職手当等かどうかも問題になる。通常の香典と同じ基準だけで判断せず、国税庁の質疑応答事例や支給資料を基に税務を確認する。

葬儀費用を誰が負担するかと、相続税の控除は別

葬儀費用を最終的に誰が負担するかは、契約した人、葬儀を主宰した人、家族間の合意や具体的な事情を確認する必要がある。相続人全員が自動的に均等負担する、あるいは遺産から自由に支払える、と一律に決めるものではない。

一方、相続税の計算では、一定の相続人や包括受遺者(遺言で、遺産の全部や一定の割合を受け取る人)が負担した葬式費用を控除できる。国税庁No.4129は、火葬・埋葬・納骨、遺体や遺骨の回送、通夜など通常葬式に欠かせない費用、読経料等を挙げている。

香典返し、墓石や墓地の購入等、初七日などの法事にかかった費用は、その葬式費用控除の対象に含まれない。請求書に一括書かれている場合も、項目を分けて確認する必要がある。

香典を使ったかどうかだけで、葬式費用を控除できるかは決まらない。誰が、どの費用を、実際に負担したかを確認する。お金が誰のものか、誰のお金で払ったか、相続税で差し引ける費用かは、分けて考える。

美穂の領収書には、葬儀社の費用、香典返し、後日の法要が混じっていた。どれも父を送るために使ったお金ではある。しかし税金を計算するときの葬式費用控除は、必要な葬送の費用として扱う範囲が定められている。「父のために使った」という気持ちだけで全部を引けるわけではない。

また、香典40万円を受け取ったという事実だけで、葬式費用の控除が一律40万円減る、という計算にも直結させない。香典の帰属、実際の負担者、支出項目を区別して資料をそろえる。

故人の預金から葬儀費用を払った場合

美穂は、自分が払った90万円を、父の預金から戻してよいかと考えた。ここでは、香典を受け取る話から、父の財産を処分する話へ問題が変わる。

相続放棄は、相続人として財産と負債を引き継がないための制度だ。ところが財産を自由に売ったり使ったりしながら、負債だけ引き継がないとすると、父へお金を貸した人などの利益を害する。そのため、一定の財産処分をした場合には、相続を単純承認したものと扱う規定がある。

ただし、相続が起きれば葬儀を行う必要もある。具体的な事情の下で、葬儀費用等への支出が法定単純承認に当たらないとされた場合はある。だから、父のお金を一円でも使ったら必ず放棄できない、とも、葬儀という名前なら何にいくら使っても安全、とも決められない。

これらは葬儀の社会的な必要性などを踏まえた判断だが、葬儀に関係するすべての支出を無条件に許すものではない。金額、支出内容、故人の財産状況、残金の扱いなどを示して確認する必要がある。高額な墓石や仏壇、会食、私的な支出まで自動的に問題がないとはいえない。

放棄を検討中であれば、遺族自身のお金や香典で支払えるかも検討し、故人の預金を使う前に弁護士へ相談する。すでに使った場合も、そのことだけで諦めたり隠したりせず、出金額、領収書、残額を整理して経過を伝える。

香典とは別に、財産の売却や分配を進めない

故人の預金を生活費に使う、不動産や車を売る、価値のある遺品を分配する、相続人として遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)を成立させるといった行為は、法定単純承認に関わる可能性がある。香典を受け取れることを、遺産も自由に扱ってよいという意味に広げないようにする。

相続放棄の熟慮期間は、原則として自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月だ。葬儀後に借金が分かった場合にも、知った日から必ず数え直せるわけではない。隠れた借金と3か月の期間を数え始める時点で、原則と例外を確認できる。

調査に時間がかかり期間内に判断できない場合は、満了前に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法を検討する。葬儀や片付けの忙しさだけで、期限が自動延長されるわけではない。

すでに支払った場合も、隠さず経過を整理する

美穂と健は、父の口座からの出金を急がず、香典帳、葬儀社との契約書、領収書、自分たちが立て替えた額をまとめた。

すでに父の預金を使った場合は、いつ、何に、誰のお金をいくら使い、いくら残ったかを記録する。その事実を隠さず、放棄できないと自分だけで決めず、資料を示して個別に確認する。

香典を受け取ったら借金も背負うのか、という最初の問いは、「どのお金を扱ったのか」と分けることで整理できる。相続放棄の期間は、その整理が終わるまで自動では止まらない。お金の出どころと支出の記録をそろえながら、必要なら期間伸長も含めて確認したい。

参考資料

ほかにも確認する手続がある場合は、相続放棄・債務(借金など、支払い等をしなければならない義務)の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

相続放棄を考えていても香典を受け取れる?

通常の香典は喪主や遺族等に贈られる金品で、故人の相続財産とは区別する。受領だけで自動的に相続放棄が妨げられるわけではないが、遺産と分けて記録する。

香典は金額にかかわらず非課税?

個人から受ける香典等で、社会通念上相当と認められるものは贈与税がかからない。香典という名目だけで、すべての金額が非課税になるわけではない。

香典返しは葬式費用として相続税から控除できる?

国税庁No.4129では、香典返し、墓石や墓地の購入等、初七日など法事の費用は、控除できる葬式費用に含まれない。

故人の預金から葬儀代を払ったら放棄できない?

葬儀費用等への支出が法定単純承認に当たらない場合はある。ただし一律ではないため、金額、内容、お金の出どころ、残金を整理して個別に確認する。

葬儀や片付けの間は3か月の期限が止まる?

自動では止まらない。期間内に調査して判断できない場合は、満了前に家庭裁判所へ熟慮期間の伸長を申し立てることを検討する。

本記事は一般的な情報提供です。個別の期限や必要な手続は、相続の経緯と資料を示して管轄窓口や専門家へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ