相続放棄は、熟慮期間の3か月以内であっても、いったんした後は任意に撤回できません。一方、詐欺・強迫や制限行為能力など法定の原因があるときは、「撤回」ではなく取消しを検討します。
財産が後から見つかった、税額が予想より大きかった、気が変わったという事情だけで当然に戻せる制度ではありません。取消原因、短い期間制限、家庭裁判所への申述を分けて確認します。
撤回と取消しは別の手続
民法919条1項は、相続の承認・放棄は民法915条1項の熟慮期間内でも撤回できないと定めています。相続人や債権者の地位を早く安定させるため、単なる翻意を認めないルールです。
これに対し、同条2項は、民法総則・親族編の規定により承認・放棄を取り消すことまで妨げないとしています。つまり、次のような法定の取消原因が問題になります。
- 詐欺または強迫によって放棄した場合(民法96条)
- 未成年者が法定代理人の同意を得ずにした場合など、制限行為能力に関する取消原因がある場合
- 後見監督人の同意を要するのに、その同意を得ずに後見人が放棄した場合
「プラスの遺産を知らなかった」というだけで、直ちに詐欺や錯誤による取消しになるわけではありません。誰がどの情報を、いつ、どのように伝え、その情報が放棄の意思決定にどう影響したかを証拠で検討します。
取消権には6か月と10年の制限がある
民法919条3項により、取消権は追認できる時から6か月間行使しないと時効で消滅し、承認・放棄の時から10年を経過したときも消滅します。詐欺なら詐欺と知った時、強迫なら強迫状態を脱した時など、取消原因ごとに起算点を確認します。
相続放棄の取消しは、相手方へ通知するだけでは足りません。同条4項により、家庭裁判所へ取消しの申述をする必要があります。受理した家庭裁判所、事件番号、受理通知書、取消原因を示す資料を早めに整理します。
受理された放棄の有効性が常に確定するわけではない
最高裁昭和29年12月24日判決は、放棄申述が家庭裁判所に受理されても、法律上の無効原因がある場合に後の訴訟で主張することを妨げないとしました。受理手続と、債権者等との間で実体的な効力が争われる場面は区別します。
また、相続税が予期より多かった事案や、他の共同相続人も放棄すると期待した事案について、最高裁が旧法下の動機の錯誤による無効を否定した例があります。事情が変わった、予測が外れたというだけでは足りないことを示す実務上の注意点です。
後悔を防ぐため申述前に行うこと
- 預貯金、不動産、有価証券、保険、債権を確認する
- 借入れ、保証債務、未払税金、賃貸借上の債務を確認する
- 遺産を処分せず、民法921条の法定単純承認に当たる行為を避ける
- 調査が終わらなければ、熟慮期間内に期間伸長の申立てを検討する
熟慮期間の起算点と例外は相続放棄の3か月を過ぎた場合、放棄後の対応は相続放棄後の手続きで整理しています。
公的資料・判例
- e-Gov法令検索「民法」915条・919条・938条
- 裁判所「相続の放棄の申述」
- e-Gov法令検索「家事事件手続法」201条
- 最高裁昭和29年12月24日判決・民集8巻12号2310頁(受理後の実体的効力)
- 最高裁昭和30年9月30日判決・民集9巻10号1491頁(動機の錯誤)
よくある質問
相続放棄は3か月以内なら撤回できますか
できません。民法919条1項は、熟慮期間内でも承認・放棄を撤回できないと定めています。
財産が後から見つかれば取り消せますか
後発的な発見だけで当然に取り消せるわけではありません。詐欺・強迫など法定の取消原因と因果関係を具体的な証拠で検討します。
取消しは相手への通知だけで足りますか
相続放棄の取消しは家庭裁判所へ申述しなければなりません。受理裁判所へ速やかに確認します。
取消しはいつまでできますか
追認できる時から6か月、または放棄時から10年という期間制限があります。どちらか一方だけを見ないようにします。
受理証明書があれば有効性は絶対ですか
証明書は申述が受理された事実を証明するものです。無効原因など実体的な効力が後の訴訟で争われる余地までなくすものではありません。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。取消原因、期間の起算点、申述経過、財産処分、証拠により結論は異なります。受理裁判所または弁護士へ資料を示して確認してください。



