限定承認と相続放棄の違い|全員一致・3か月・税務の注意点

限定承認と相続放棄の違い|全員一致・3か月・税務の注意点

限定承認は、受け継いだ遺産の範囲に、借金等を返す責任を限って相続する制度だ。相続放棄は、その相続では初めから相続人でなかったものと扱われる。

どちらも、家だけを無条件で残せる制度ではない。限定承認には、受理後の清算や税金の確認も必要だ。

架空の兄妹で考えよう。父の相続について、兄の直人は実家を残したいと考えた。妹の絵里は、父の借金と保証がどこまであるか分からず、自分の生活へ負担が及ぶことを心配していた。家を諦めて放棄するか、借金もすべて受け継ぐか。その二択しかないのかと二人は迷った。

借金がはっきりしない一方で、財産が残る可能性がある。そうした時に、全部を放棄するか、自分の財産まで責任を負って相続するかの間の選択肢になるのが、限定承認だ。

ただし、お金を受け取る権利を持つ債権者にも影響する。公告で知らせ、決められた順番で支払う清算が必要になる。直人と絵里は、受理まででなく、その後の仕事、税金、必要資金も比べることにした。

二つの制度の違いを先に確認する

項目 限定承認 相続放棄
効果 相続し、弁済する責任を相続財産の範囲に限る 初めから相続人でなかったものとされる
参加者 相続人全員 各人が単独で行える
申述 財産目録を添えて家庭裁判所へ 家庭裁判所へ
受理後 公告・催告、財産の売却や借金の支払いなどによる清算 受理の連絡、必要な財産の保存・引渡し等
財産取得 清算後に残る場合がある その相続の財産は受け取らない

根拠は民法915条、922条以下、938条・939条だ。いずれも原則として、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に選択する。

限定承認は、借金そのものを消す手続ではない

限定承認でも、故人の借金等の債務は引き継ぐ。そのうえで、支払う責任を遺産の範囲に限る。

遺産より借金が多くても、適切に限定承認をすれば、原則として遺産を超える分を自分の財産から払う責任は負わない。

債権者が請求できなくなるわけではない。必要な場面では限定承認をしたことを示し、清算の決まりに沿って対応する。

自分自身が故人の借金の保証人になっていた場合の責任は、別の問題だ。

「借金があるか分からないから、念のため限定承認だけしておく」という選び方では、受理後の負担を見落としやすい。どの財産を誰が調べ、どの債権者に対応し、清算を進めるかを先に相談することが重要だ。

責任の範囲だけを比べるため、売ってお金にできる遺産を1,000万円、借金等を1,500万円と仮定する。

適切な限定承認なら、原則として遺産を超える500万円を、自分の財産から追加で払う責任は負わない。ただし、500万円の債務そのものが消えるわけではない。

これは清算の費用や税、担保権、優先関係等を省いた制度の比較例で、債権者への実際の配当額を確定する計算ではない。直人自身が保証人になっていれば、その保証責任を限定承認で切り離せるわけでもない。

限定承認には、相続人全員の参加が必要

民法923条では、相続人が複数なら全員で限定承認をする。一人が限定承認し、他の人は借金等も制限なく引き継ぐ単純承認、という組合せはできない。

相続人が一人だけなら、その人が単独で手続をする。

相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったものと扱われる。その人を除く相続人全員で、限定承認を検討できる。

ただし「手続には参加しない」と言っただけでは外せない。実際に相続放棄をしたか、他の相続人はいないかを確かめる。

相続人に未成年者がいる、行方不明者がいる、すでに財産を処分した人がいる場合などは、追加の手続や限定承認ができるかどうかを確認する必要がある。全員の話合いがまとまるまで何もしないまま、3か月を過ぎないようにする。

絵里は単純承認、直人だけ限定承認、という選び方はできない。

絵里が有効に相続放棄をし、他に相続人がいなければ、直人一人での限定承認を検討できる。絵里が「手伝わない」と言っただけでは、同じ結果にはならない。二人それぞれの選択と期限を確認しよう。

受理後にも、公告・催告と清算が続く

限定承認には、熟慮期間という、相続を引き受けるか放棄するかを考える期間内に、財産目録を家庭裁判所へ提出し、申述する必要がある。申述は、裁判所に意思を申し出ることだ。

受理後も手続は続く。債権者や受遺者(遺言で財産を受け取る人)へ、請求を申し出るよう公告する。分かっている人には個別にも通知し、財産の売却や支払いを進める。

期限と順番があるため、先に請求してきた人へ自由に全額払えばよいわけではない。決まりに反する支払いで他の債権者等に損害を与えれば、損害賠償の責任を負うこともある。

相続人が複数なら、家庭裁判所がその中から、遺産の管理と借金等の支払いを進める清算人を選ぶ。ここでの清算人は、相続人がいるか分からない場合の清算人とは別の制度だ。

古い解説では「相続財産管理人」と書かれることもある。現行民法936条の名称と手続を確認しよう。

公告は、単独の限定承認者なら原則として限定承認後5日以内に行う。相続人が複数で清算人が選ばれた場合は、その選任後10日以内になる。

請求の申出期間は2か月以上とし、分かっている債権者等へは個別の催告も必要だ。民法927条・936条に沿って、官報への公告等を進める。

受理されてから担当者を探し始めると間に合わないおそれがある。申述する前から、次の期限への対応を相談しよう。

実家を残したい場合は、必要資金まで確認する

限定承認をしても、債務を支払うために財産の売却が必要になることがある。家だけを選んで無償で確保し、借金を切り離す制度ではない。

民法932条には、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価に従って、遺産の全部または一部の価額を払い、競売を止める仕組みがある。

実家を残すなら、この方法を使えるか、必要なお金を用意できるか、担保権が付いていないかを具体的に調べる。

残したいという希望だけで選ぶのではなく、不動産の評価、借入残高、清算費用、手元資金を並べて相談すると、実行可能な選択肢を比較しやすい。

直人が家を残す方法に、資金が足りるか

鑑定人の評価に応じた支払いで競売を止める方法を検討する、架空の資金比較例だ。

支払いに必要と仮定する額 1,500万円
− 用意できるお金 800万円
= 不足 700万円

実家に1,500万円の価値があっても、直人の手元にそのお金があるとは限らない。手続費用、税金、担保権への対応は別に確かめる。

絵里は「限定承認なら家が残る」と考えかけていた。しかし、清算の方法と資金の用意も確かめる必要があると分かった。

親族のお金を使うなら、贈与か貸付けかを決める。契約と税金も別に確かめよう。

限定承認では、相続税以外の税務も確認する

限定承認では、実際に売っていなくても、不動産等を相続時の価額で売ったものとみなす税の扱いがある。所得税法59条によるものだ。

対象は譲渡所得等の計算に関わる資産で、値上がり益について所得税の確認が必要になる。

どの財産にも、一律に同じ税額がかかるわけではない。資産の種類、取得にかかった費用、相続時の評価を調べる。

故人の所得税を相続人が申告する準確定申告を含め、申告と納税が必要かを確認しよう。家裁で責任を限定することと、税の計算・期限は別の問題だ。

制度の選択前に、弁護士と税理士が同じ財産一覧を確認できるようにすると、法的な責任の範囲だけでなく、手続後の資金負担まで見通しやすい。

調査が間に合わないときは、3か月の満了前に動く

3か月の始まりは、一律に死亡日ではない。各人が、自分のために相続が始まったことを知った時を確かめる。

後から借金が分かっても、それだけで自動的に期限が延びるわけではない。

調査しても判断できない場合は、満了前に熟慮期間の伸長を申し立てる方法を検討する。申立てをすれば希望どおり延びると決めつけず、元の期限と調査状況を確認する。詳しくは相続放棄と後から判明した債務、相続放棄の3か月の期間を数え始める時点を参照できる。

相談時は、残したい財産と負担できる範囲を伝える

財産・借金の一覧、相続人の関係、調査済みの内容、残したい財産をまとめる。他の相続人が協力できるか、費用や清算に使える資金があるかも伝えると、限定承認を実行できるかを判断しやすい。

相談時は、法律上の手続と税務を合わせて確認したい旨を伝えるとよい。資料が不十分でも、期限が迫っている場合はその点を先に伝える。

直人は実家の権利と担保、用意できる資金を、絵里は見つかった借金・保証と調査先を一覧にした。二人の相続関係と、誰がどの選択を考えているかも添える。限定承認という名前だけで安心せず、家を残す案、清算する案、放棄する案の効果と負担を比べて判断する。

税務の確認資料

所得税法59条が限定承認に係る相続の扱いを定める。関連する解釈は国税庁の所得税基本通達・59条関係で確認できる。

ほかにも確認する手続がある場合は、相続放棄・債務の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

限定承認は一人だけでできる?

相続人が一人なら単独でできる。相続人が複数いる場合は全員共同が必要で、相続放棄をした人を除いた相続人の範囲を確定する。

限定承認なら借金を一切払わなくてよい?

相続財産の限度で債務や遺贈を弁済する制度であり、公告・催告や清算の手続が必要だ。自分自身の保証責任などは別に確認する。

限定承認をすれば実家は必ず残せる?

必ずではない。清算のための売却が必要な場合があり、評価額の弁済によって競売を止める方法などを検討するには、必要資金や担保権も確認する。

限定承認には相続税以外の税金も関わる?

不動産などについて、所得税法59条のみなし譲渡による所得税の検討が必要になることがある。取得費や評価、準確定申告を含む申告が必要かどうかを確認する。

3か月で財産調査が終わらない場合は?

熟慮期間の満了前に家庭裁判所へ期間伸長を申し立てる方法を検討する。調査だけで自動的に期間が止まるわけではない。

本記事は一般的な情報提供です。個別の期限や必要な手続は、相続の経緯と資料を示して管轄窓口や専門家へ確認してください。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

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文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

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