養子縁組によって、相続税の計算が変わることはある。ただし、基礎控除が増える額と、減る税額は同じではない。
税金の計算で数える人数と、民法上の相続権も分けて確かめる。縁組は、法律上の親子関係をつくる手続だ。
妻と死別した章夫には、長女の麻里と長男の洋介がいる。章夫は、よく顔を見せる麻里の子・航を養子にしたい。架空の家族で考えよう。
麻里は「相続税も減るらしい」と前向きだ。洋介は「自分の取り分が変わるのでは」と心配する。成人した航も、税金の話だけで親子関係を決められては困ると感じている。
まず、章夫と航が法律上の親子になることを望むかを確認する。次に相続権の変化、最後に税額を調べよう。
節税の目的があるだけで、直ちに縁組が無効になるわけではない。一方、有効な縁組なら必ず税額も下がるとは限らない。
養子縁組は法律上の親子関係をつくる
普通養子縁組では、養子は縁組の日から養親の法律上の子となり、相続人になる。民法809条は「嫡出子の身分を取得する」と定めている。
実の親との親族関係も原則として続くため、養親と実親の双方で相続権が関係する。税の計算へ名前だけを加える手続ではない。
章夫と航が有効に縁組すると、航は章夫の孫であると同時に、法律上の子にもなる。
章夫に配偶者がおらず、麻里・洋介・航の三人が子として相続する単純な例なら、法定相続分は各3分の1だ。法定相続分とは、法律で決められた相続の割合をいう。縁組前の麻里・洋介各2分の1から変わる。
法定相続分どおりに、必ず現物を分けるという意味ではない。遺言や、家族で分け方を決める分割協議も関係する。
ただし、各人の遺留分や、協議へ参加する人は変わり得る。遺留分は、一定の近い家族に保障された最低限の取り分だ。洋介の心配は、税金と分けて検討しよう。
控除の増加額と、減る税額を分ける
相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求める。この人数は、税法の決まりに沿って数える。
章夫の例では、子二人なら4,200万円。航を養子として人数に入れられ、三人になれば4,800万円だ。
課税価格の合計を6,000万円とする。航を税の人数へ入れられ、ほかの特例等を考えない例だ。
6,000万円 − 基礎控除4,200万円
= 1,800万円
6,000万円 − 基礎控除4,800万円
= 1,200万円
600万円減るのは、基礎控除を引いた後の課税遺産総額だ。税金が600万円減る意味ではない。
法定相続分による総額の計算や、各人の2割加算・税額控除等まで調べ、最終税額を比べる。
条件を満たす死亡保険金と死亡退職金には、それぞれ「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額がある。
人数が二人から三人へ増えれば、それぞれ1,000万円から1,500万円になる。ただし、対象の保険金等がなければ、枠が増えるだけで税額は減らない。
保険金の非課税には、受取人が相続人であること等の条件がある。
基礎控除、保険金等の非課税、相続税の総額、受け取る人の税額は、別々に調べる。一つの「600万円の節税」にまとめないようにしよう。
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税の計算で数える養子には上限がある
税の計算で数える養子は、亡くなった人に実子がいれば原則一人まで、実子がいなければ原則二人までだ。
この制限は、基礎控除だけでなく、保険金・死亡退職金の非課税限度額や、相続税の総額計算にも関係する。
例えば、実子二人と普通養子三人がいて、養子全員が原則の制限を受けるとする。税の計算では、実子二人と養子一人の計三人として扱う。
それだけで、有効に成立した縁組が無効になるわけではない。税の人数に入らない養子にも、民法上の相続権はある。
特別養子縁組の養子や、配偶者の実子を養子にした人等は、税法上、実子として扱う例外がある。
すべての養子を一人・二人で打ち切るわけではない。戸籍の関係と、縁組の種類を確かめよう。
章夫が「航以外の孫も同じように養子にすれば、その人数だけ基礎控除が増える」と考えても、原則の上限がある。それでも親子関係や相続権の変化は残るため、増える控除だけを理由に縁組を重ねない。
縁組の有効性と、税の人数を分ける
最高裁の2017年1月31日判決は、節税の動機と縁組の意思は両立し得るとした。節税だけが目的という事情から、直ちに縁組の意思がないとはいえないと判断している。
節税目的なら、どの縁組も自動的に有効だとした判決ではない。
一方、養子を人数に含めることで、相続税の負担を不当に減らす結果になると認められる場合には、その原因となる養子を数えない取扱いがある。相続税法63条の決まりだ。
これは税額計算の問題であり、民法上の縁組が有効かどうかとは別に判断する。
「節税目的なら必ず否認」「一定期間同居すれば必ず認められる」とは決められない。
縁組の事情、本人同士の意思、家族関係、財産と税額への影響を調べる。書類の体裁を整えるため、生活の実態を後から作る話でもない。
章夫と航も、日頃交流していることだけで結論を出さず、法律上の親子になる意思をそれぞれ確認した。麻里が節税効果を期待していても、それが本人同士の意思確認の代わりになるわけではない。
判決の範囲は最高裁平成29年1月31日判決の本文、税務の人数制限等は国税庁No.4170で確認できる。
孫養子は、相続税額の2割加算も計算する
孫を養子にしても、原則として、その孫には相続税額の2割加算が関係する。養子だから必ず加算を避けられるとは限らない。
親に当たる故人の子が先に亡くなった場合等で、孫が代わって相続する代襲相続人となっていれば、例外がある。
2割加算は、相続した財産の20%を、そのまま払う制度ではない。各人の税額控除前の相続税額を基に計算する。
基礎控除等が増えて税額が下がる部分と、航に2割加算が関係する部分を合わせて比べよう。
ある受取人の、加算前の対象税額が100万円なら、2割分は20万円になる。制度を説明する例で、航の税額を100万円とするものではない。
航の取得額、章夫の全財産、ほかの控除等を調べなければ、最終税額は分からない。
孫へ一世代先の財産を渡せるという面だけで、家族全体の負担が必ず減るとは判断しない。今の相続と次の世代の相続、本人の生活、他の引き継ぐ方法を並べて考える。
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連れ子や甥・姪は、相続人の範囲も変わる
再婚相手の連れ子は、養子縁組等をしなければ、血のつながらない配偶者の相続人に自動的にはならない。縁組には、法律上の子として迎える意味がある。
子のいない人が甥・姪を養子にする場合も、相続人の範囲や順位が変わる。
どの家族でも「一人足して控除600万円増」とは限らない。
誰が相続人から外れ、誰が新たに入るか、配偶者がいるか、税の人数の例外に当たるかを確認する。遺言、贈与、保険と比べるときも、それぞれの目的を押さえよう。
本人の意思と手続の条件を確かめる
普通養子縁組では、本人同士の意思と法律の条件を確かめ、市区町村へ届け出る。
配偶者の同意や、未成年者を養子にする場合の夫婦共同の縁組等、家族関係ごとの条件と例外も調べよう。
未成年者を養子にするには、原則として家庭裁判所の許可が要る。ただし、自分や配偶者の直系卑属を養子にする場合等は例外だ。直系卑属は、子や孫等、自分より後の世代に当たる直系の親族をいう。
15歳未満では、本人の同意だけで進める仕組みではない。親権者等の法定代理人が代わって承諾することや、ほかに同意が必要な人を確認する。
成人した航の例と、幼い孫を養子にする例とで、同じ書類をそろえればよいとは限らない。手続は裁判所の養子縁組許可の案内も確認する。
章夫たちは、縁組前後の税額、相続分と遺留分、意思確認の結果を別々に整理した。控除を計算しても、洋介への説明や遺言の見直しは残る。
航がどう望むかを聞き、法律上の親子になるかを本人たちが決める。その確認から始めよう。
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ほかにも確認する手続がある場合は、相続人・家族関係の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
養子1人で相続税が600万円減るか
600万円は基礎控除の増加額であり税額ではない。税務上人数に算入できるかを確認し、相続税の総額と受け取る人別の税額まで試算する。
孫を養子にすれば必ず節税になるか
基礎控除等が増える場合がある一方、孫養子には原則として相続税額の2割加算がある。代襲相続人の例外、取得割合、他の控除と合わせて比較する。
普通養子縁組は後で解消できるか
協議による離縁や、法定の条件に基づく裁判上の離縁などがある。ただし自由に一方だけで取り消せるわけではなく、当事者の状況に応じて手続を確認する。離縁後の親族・相続関係や既往の贈与等も別に確認する。
税金を計算するときの人数に入らない養子にも相続権はあるか
税金を計算するときの人数制限だけで有効な縁組が無効になるわけではない。民法上の子としての相続権と、税額計算での人数を区別する。
分割協議中なら相続税申告を待てるか
通常は相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内が申告・納付期限となり、協議中でも自動的には延びない。未分割で申告し、分割後の修正申告や更正の請求(多く申告した税額などを、税務署に直してもらうよう求める手続き)を検討する。



