生前贈与は、贈与者が財産を無償で与える意思を示し、受贈者が受諾することで成立します。税務上は、合意だけでなく、財産の引渡し、取得後の管理、必要な贈与税申告まで一貫して説明できるようにします。
実行するときは、①当事者と財産を決める、②受贈者が受諾する、③送金・名義変更等を行う、④受贈者が管理する、⑤課税方式と申告要否を確認する、の順で記録を残します。契約書、振込み、申告のどれか一つだけで万全になるわけではありません。
生前贈与の成立と税金を分けて考える
民法549条は、贈与者が財産を無償で与える意思を表示し、相手方が受諾することで贈与の効力が生じると定めています。書面によらない贈与も成立し得ますが、履行前に解除できる範囲があるため、書面と実行記録を残すことが実務上重要です。
贈与が成立したかという民法上の問題と、贈与税の計算・申告、相続時の生前贈与加算は別の段階です。「契約書があるから相続財産ではない」「110万円以下だから記録は不要」と一つの事実だけで結論を出さないようにします。
実行前から申告までの5ステップ
1. 贈与者・受贈者・財産・時期を決める
誰から誰へ、何を、いつ、いくら贈与するかを特定します。現金、預金、有価証券、不動産では、引渡し・名義変更の方法や評価方法が異なります。贈与後も贈与者の生活費、介護費、納税資金が不足しないかも確認します。
2. 受贈者の受諾を記録する
贈与契約書には、当事者、対象財産、贈与日、引渡方法を記載し、当事者が内容を確認します。未成年者、認知機能に不安がある人、代理人が関与する場合は、意思能力、代理権、利益相反の有無を個別に確認します。家族が本人に代わって自由に贈与を決められるわけではありません。
3. 合意した方法で財産を移す
預金なら、贈与者の口座から受贈者の口座への振込みは資金経路を示しやすい方法です。ただし、振込みだけで贈与の受諾や管理移転まで証明できるわけではなく、現金の贈与が法律上常に無効になるわけでもありません。現金なら受領書、出金記録、保管・使用記録をより丁寧に残します。不動産や株式は登記・名義書換え等を行います。
4. 受贈者が取得後の財産を管理する
受贈者が通帳、印鑑、カード、認証手段を管理し、払戻しや運用を判断できる状態にします。贈与者が管理を続け、利息や売却代金も使っていると、名義だけを移した財産かが問題になります。
5. 課税方式と申告要否を確認する
暦年課税では、受贈者が1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計から基礎控除110万円を差し引きます。複数の贈与者から受けても110万円は受贈者ごとの年額です。基礎控除後の課税価格がある場合は、原則として翌年2月1日から3月15日までに申告・納税します。
相続時精算課税は、年齢・関係等の要件を満たして選択届出をし、2024年以後は受贈者ごとに年110万円の基礎控除があります。2,500万円の特別控除とは別の仕組みで、選択した特定贈与者について暦年課税へ戻ることはできません。詳しくは2024年改正後の暦年課税・相続時精算課税で比較しています。
保存する資料
- 贈与契約書、当事者間のメール・メッセージ
- 送金記録、通帳写し、受領書、登記・名義書換書類
- 財産評価の根拠資料
- 贈与税申告書、届出書、納付記録
- 取得後の保管、運用、使用を示す資料
保存年数を一律に「10年」と決めるのではなく、将来の相続税申告、生前贈与加算、財産帰属の説明に必要な期間を見据えて保管します。電子データはファイル名に日付・当事者・財産を入れ、紙資料と対応させます。証拠の考え方は生前贈与の証拠と管理実態も参照してください。
避けたい説明
- 毎年同じ日・同じ額なら自動的に定期贈与になる
- 111万円を贈与して少額の税を払えば必ず認められる
- 振込みなら必ず贈与、現金なら贈与にならない
- 申告書があれば財産の帰属は確定する
- 申告漏れがあれば必ず重加算税になる
国税庁は、あらかじめ複数年にわたり一定額を給付する契約をした場合と、毎年改めて贈与契約を結んで各年の贈与を行う場合を区別しています。日付や金額を意図的にばらつかせることではなく、実際の合意内容と履行が重要です。
公的資料・根拠
- e-Gov法令検索「民法」(549条・550条)
- e-Gov法令検索「相続税法」
- 国税庁「贈与税がかかる場合」
- 国税庁「複数の人から贈与を受けたとき」
- 国税庁「贈与税の申告等」
- 国税庁「相続時精算課税の選択」
よくある質問
贈与契約書がなければ贈与は無効ですか
書面がなくても合意により成立し得ます。ただし、合意内容と履行を後から説明できるよう、契約書や送金記録等を残すことが重要です。
生前贈与は必ず銀行振込みで行うべきですか
振込みは資金経路を示しやすい方法ですが、法律上の唯一の方法ではありません。現金の場合は受領・保管・使用の記録をより丁寧に残します。
贈与税を申告すれば贈与は必ず認められますか
申告書は重要な資料ですが、それだけでは決まりません。贈与の合意、財産移転、取得後の管理・利用を総合して確認します。
毎年同じ金額を贈与すると定期贈与ですか
同じ金額という事実だけでは決まりません。最初に複数年分を約束したのか、各年に改めて贈与契約をしたのかという実際の合意内容が重要です。
生前贈与の資料は何年保存しますか
一律の年数だけで判断せず、贈与税申告、将来の相続税の生前贈与加算、財産帰属を説明する必要がある間は保管します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。口座の原資、贈与の合意、管理実態、相続開始日、申告状況などにより結論は異なります。個別案件は税理士・弁護士へ資料を示して確認してください。



