相続放棄とは、相続人が被相続人の財産と債務のすべてを引き継ぐ権利を放棄する手続きであり、代襲相続とは、本来の相続人が死亡・相続放棄などにより相続できない場合に、その子(孫など)が代わりに相続する制度とされています(民法887条・938条)。
結論から言うと、相続放棄をすると代襲相続は発生しないため、放棄した人の子は相続人にならない可能性がありますが、これを知らずに手続きを進めると、想定外の人物が相続人になるケースがあります。
「うちの子どもたちには、ちゃんと財産を残してやれる」──そう信じていた父親が、ある日突然逝った。
残された家族が「相続放棄」という選択肢を検討し始めた、ちょうどその瞬間。誰も予想していなかった問題が、静かに、しかし確実に浮上してくることがある。
「放棄したら、子どもたちが代わりに相続するんじゃないの?」
この一言が、相続の現場で何度繰り返されてきたことか。
相続放棄したら孫に権利がいくと思ってたのに、違うの……?
で、結論から言うと
相続放棄と代襲相続。この二つは、まるで似た概念のように聞こえるが、実際にはまったく別次元の話である。
端的に言う。
相続放棄をした人の子は、代襲相続できない。
代襲相続(民法887条)とは、相続人が「死亡」していたり「欠格・廃除」された場合に、その子が代わりに相続する制度だ。しかし相続放棄は、この対象に含まれていない(民法887条2項)。放棄した人は「最初から相続人でなかった」とみなされるため、その子どもが「じゃあ私が代わりに」と名乗り出る余地は、法律上、存在しないとされている。
これが理解できていないと、家族全員が放棄したつもりで動いていたら、実は全然違うところに相続権が飛んでいた──という事態が、静かに発生することになる。

相続放棄と代襲相続。何が違うのか、整理しよう
ここをきちんと整理しておかないと、後で「思っていた結果と違う」という状況が待ち受ける可能性がある。ポイントを並べよう。
- 代襲相続が発生するケース:相続人が被相続人より先に死亡した場合、相続欠格(民法891条)または廃除(民法892条)になった場合
- 代襲相続が発生しないケース:相続人が相続放棄をした場合(民法887条2項)
- 放棄した後の相続権の行方:放棄した人の「分」は、次順位の相続人へと移る
たとえばこういうケースを考えてほしい。被相続人の子(第1順位の相続人)が全員、相続放棄をした。すると、相続権は第2順位の直系尊属(父母・祖父母)へ移動する。直系尊属も全員いなければ、第3順位の兄弟姉妹へ移動することになる(民法889条)。
そして、もし兄弟姉妹がすでに亡くなっていた場合──今度こそ代襲相続の登場だ。兄弟姉妹の子(甥・姪)が代襲相続人となる可能性がある(民法889条2項)。ただしこれは一代限りであり、甥・姪の子には代襲されない点に注意が必要とされている。
まとめると、こうなる。
- 相続放棄 → 代襲なし → 次順位へ移行
- 相続欠格・廃除・死亡 → 代襲あり → 子が受け継ぐ可能性がある
- 兄弟姉妹の代襲 → 甥・姪まで(一代限り)
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知っておきたい「相続放棄の連鎖」という現象
さて、もう一つ知っておくと便利な話をしよう。
相続放棄は「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要がある(民法915条・938条)。被相続人の死亡日から3ヶ月ではない。「知った日」からである。この起算点のズレが、思わぬ落とし穴になる場合がある。
で、ここに「連鎖」という概念が生まれる。
第1順位の子が全員放棄する。すると次に、第2順位の直系尊属のもとへ相続権が移る。しかし直系尊属は「自分が相続人になったことを知った日」から3ヶ月のカウントが始まる。同様に、第3順位の兄弟姉妹にも移った瞬間から、別のカウントダウンが静かに始まる。
つまり相続放棄とは、一度で終わらないことがある。関係者全員に、それぞれの「3ヶ月」が発生しうる構造なのだ。

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自分で動くための実践ステップ
では、具体的にどう動けばいいのか。順を追って確認しよう。
ステップ1:相続人の範囲を確認する
まず「自分は何順位の相続人か」を把握する。被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで)を取り寄せ、法定相続人を確定させることが出発点だ。これが曖昧なままでは、放棄の連鎖がどこまで及ぶかも見えてこない。
ステップ2:プラスとマイナスの財産を把握する
相続放棄を検討するなら、まず財産の全体像を把握する必要がある。借金だけが問題とは限らない。資産がある場合に安易に放棄すると、本来受け取れたものを手放すことになる可能性もある。通帳、不動産の権利証、信用情報機関(JICC・CIC)への照会を活用して、プラスとマイナスを一覧化してみよう。
ステップ3:3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する
相続放棄は、口頭や書面での合意では法的効力を持たない(民法938条)。家庭裁判所への申述が必須だ。申述書・被相続人の戸籍謄本・申述人の戸籍謄本などを準備し、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出する。3ヶ月の期限が厳しい場合、「期間の伸長」申立て(民法915条1項ただし書)という選択肢もある。
ステップ4:放棄後に相続権が移る先を把握する
自分が放棄した後、次にどこへ相続権が移るかを事前に知っておくことが重要だ。場合によっては、まったく連絡を取っていない親族に通知が必要になることもある。相続権が移る可能性がある人物に対して、早めに状況を共有しておくと、関係者全員の「3ヶ月」をスムーズに消化できる可能性がある。
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知ってよかった、と思える日のために
相続放棄をしたのに、子どもに相続が来なかった。あるいは、全員が放棄したつもりが、疎遠だった叔父に突然相続権が飛んでいた。こういった「想定外」の多くは、制度の仕組みを事前に把握しておくだけで、ある程度は防げる性質のものだ。
相続放棄は「なかったことにする」手続きではなく、「次の人へバトンを渡す」行為である。そしてそのバトンを受け取る人物は、代襲相続のルールとは異なる経路を通って決まる。
ここを理解しているかどうかで、手続きの精度がガラっと変わる。
なるほど、放棄の後に誰が相続するかまで考えておけばよかったんだな。
動くなら早いほうがいい。「知った日」はすでに始まっている。
けっこうオススメです。全体像の把握。伝わりましたかね。
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よくある質問
相続放棄をすると、子(孫)は代わりに相続できますか
相続放棄をした場合、その子による代襲相続は発生しないとされています(民法887条2項)。代襲相続が認められるのは、相続人が死亡・欠格・廃除の場合に限られており、相続放棄はこれに該当しません。放棄後は次順位の相続人へ相続権が移る仕組みとされています。
相続放棄の3ヶ月は、いつから数えますか
相続放棄の期限は、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月以内とされています(民法915条)。被相続人の死亡日が起算点ではなく、自分が相続人であると知った日が起算点となる点に注意が必要とされています。なお、事情がある場合は家庭裁判所への期間伸長の申立ても可能です。
兄弟が相続放棄した場合、甥・姪には相続が来ますか
兄弟姉妹が相続放棄をした場合、その子(甥・姪)への代襲相続は発生しません。ただし、兄弟姉妹がすでに死亡していた場合には、甥・姪が代襲相続人となる可能性があります(民法889条2項)。なお、兄弟姉妹の代襲相続は一代限りとされており、甥・姪の子には及ばないとされています。
相続放棄は口頭の約束でも有効ですか
相続放棄は家庭裁判所への申述によってのみ効力が生じるとされています(民法938条)。相続人同士の話し合いや書面での約束だけでは法的効力はなく、正式に放棄したことにはならない可能性があります。必ず管轄の家庭裁判所へ申述手続きを行うことが必要とされています。
全員が相続放棄をすると、財産はどうなりますか
相続人全員が相続放棄をした場合、相続財産は「相続財産清算人」(民法952条)の管理下に置かれる可能性があります。最終的には国庫に帰属するケースがあるとされています。なお、特定の人物や団体に財産を残したい場合は、遺言書の作成など生前の対策が有効とされています。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





