相続税の税務調査には、職員が臨場して質問・検査を行う実地調査と、文書・電話・来署依頼などによる簡易な接触があります。調査対象の選び方を民間サイトが断定することはできません。
国税庁の令和6事務年度統計では、実地調査9,512件のうち申告漏れ等の非違があったのは7,826件、82.3%です。これは全申告者の82.3%が調査を受ける意味ではなく、選定された実地調査の結果を示す数字です。
82.3%は「全申告の調査確率」ではない
令和6事務年度に相続税の実地調査が行われたのは9,512件、そのうち申告漏れ等の非違件数は7,826件でした。7,826を9,512で割った82.3%は、実地調査を行った案件の中で非違が確認された割合です。
この分母は相続税申告全体ではありません。国税庁は「高額かつ多額の申告漏れがあると認められるものを中心」に、預貯金・有価証券等の金融資産の把握へ重点を置いて調査したと説明しています。したがって、「相続税申告をすると8割の確率で申告漏れが見つかる」「この項目があれば必ず狙われる」という読み方はできません。
実地調査と簡易な接触の違い
実地調査
国税通則法74条の3は、相続税・贈与税の調査に必要があるとき、税務職員が納税義務者等に質問し、財産や帳簿書類等を検査し、提示・提出を求める権限を定めています。納税者宅、事務所などへ臨場して質問検査等を行う場合が実地調査です。
簡易な接触・行政指導
相続税では、文書、電話、来署依頼によって申告内容を確認し、誤りの是正を求めることがあります。また、国税庁FAQは、特定の納税者の課税標準等を認定するための「調査」と、計算誤り等について自発的な見直しを求める「行政指導」を区別しています。担当職員は、具体的手続に入る前に、どちらに当たるかを明示する運用です。
電話や書面を受けたら、担当部署・氏名・連絡先、調査か行政指導か、対象税目・期間、求められた資料、回答期限を記録します。
「狙われる共通パターン」は断定できない
税務当局の個別の選定基準、点数、判定ロジックは公開されていません。国税庁が公表しているのは、高額かつ多額の申告漏れがあると認められるものを中心とし、金融資産の把握に重点を置くという調査方針です。
一般に申告前に確認すべき事項として、次のようなものがあります。しかし、該当すれば必ず調査対象になるわけではありません。
- 被相続人以外の名義になっている預貯金・証券の原資と管理実態
- 現金、貸付金、未収金、保険、暗号資産、国外財産などの計上漏れ
- 土地、非上場株式、貸付物件等の評価方法
- 生前贈与、相続時精算課税、死亡前の多額の資金移動
- 債務・葬式費用、小規模宅地等の特例などの適用要件
名義預金は重要な論点ですが、「税務署が最初に見る」「最も多い」と順位まで断定できる公表資料は確認できません。原資、名義発生手続、通帳・印鑑の管理、利息や払戻金の利用などを整理します。詳しくは家族名義の預金と管理実態を参照してください。
事前通知が原則、例外的に無予告の場合もある
国税通則法74条の9は、実地調査で質問検査等を行う場合、原則として、調査開始日時・場所・目的・対象税目・対象期間・対象となる帳簿書類等を納税者または一定の税務代理人へ事前通知すると定めています。合理的な理由があれば、日時・場所の変更を協議できます。
ただし、同法74条の10は、事前通知により違法・不当な行為を容易にし、正確な税額等の把握や調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる場合、事前通知を要しないとしています。無予告が常態という意味でも、希望すれば必ず事前通知されるという意味でもありません。
修正申告の時期で加算税が変わる
申告漏れに気づいたときは、調査開始日だけでなく、調査通知の有無と「更正があるべきことを予知したか」が重要です。国税庁の案内では、概略は次のように整理されています。
- 調査通知前かつ更正を予知する前:過少申告加算税が課されない場合がある
- 調査通知後、調査による更正を予知する前:新たに納める税額に原則5%、一定額を超える部分は10%
- 調査を受け、更正を予知した後:原則10%、一定額を超える部分は15%
延滞税は別に計算します。さらに、隠蔽・仮装がある場合は重加算税の問題となります。「調査前に出せば必ず無加算」「連絡後でも現地訪問前なら自主申告」とは限りません。誤りを発見した日、税務署からの連絡内容、資料を時系列で残してください。重加算税との違いは相続税の重加算税の要件で説明します。
調査期間は一律に1〜2年ではない
国税庁FAQは、調査に要する時間や日数は開始後の状況により異なるため、事前通知時点で一律に示すことは困難としています。確認する財産、金融機関照会、国外資料、評価争い、相続人の数などで変わります。「相続税調査は通常1〜2年」と固定期間を示す公的根拠は確認できません。
更正・決定等の期間制限は国税通則法70条に定めがありますが、一般の期間、偽りその他不正の行為がある場合、無申告、相続税法の特則などで扱いが分かれます。「5年経てば必ず安全」「除斥期間は一律7年」と単純化せず、対象年度と行為を確認します。
処分に不服がある場合の現行手続
現在の正式名称は「異議申立て」ではありません。税務署長等の処分に不服がある場合、原則として次の方法があります。
- 処分通知の翌日から3か月以内に、処分庁へ再調査の請求
- 再調査を経ず、処分通知の翌日から3か月以内に国税不服審判所長へ審査請求
- 再調査決定後は、決定書謄本の送達翌日から1か月以内に審査請求
- 裁決後も不服がある場合、原則として裁決書謄本送達の翌日から6か月以内に訴訟
修正申告の勧奨に応じると、原則としてその修正申告自体について不服申立てはできず、減額を求める場合は更正の請求など別の手続が問題になります。署名・提出前に、争点と金額の根拠を確認します。
公的資料・根拠
- 国税庁「令和6事務年度における相続税の調査等の状況」
- e-Gov法令検索「国税通則法」(65条、70条、74条の3、74条の9・10、75条)
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」
- 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等」
- 国税庁「確定申告を間違えたとき」
- 国税庁「税務署長等の処分に不服があるとき」
よくある質問
82.3%の人が税務調査を受けるのですか
いいえ。82.3%は、令和6事務年度に実地調査を行った9,512件のうち、非違があった7,826件の割合です。相続税申告全体の調査確率ではありません。
名義預金があると必ず調査されますか
必ずとはいえません。個別の調査選定基準は公表されていません。申告では原資、管理、受益、贈与の有無を確認します。
事前通知なしで来ることはありますか
原則は事前通知ですが、国税通則法74条の10の要件を満たす場合は事前通知を要しないことがあります。
税務調査は何年かかりますか
一律の期間はありません。国税庁も、調査に要する時間や日数は調査開始後の状況により異なると説明しています。
税務署の処分に不服なら異議申立てですか
現在は再調査の請求または審査請求です。原則的な申立期間があるため、処分通知を受けた日を記録します。
※本記事は一般的な情報提供を目的としています。相続開始日、贈与日、申告状況、財産の管理実態などにより結論は異なります。個別案件は税理士・弁護士へ資料を示して確認してください。



