非上場株式の相続税評価は、受け取る人の株主区分・会社規模・資産構成などに応じて財産評価基本通達により計算する。決算書の数字をそのまま使う制度ではなく、計算の入口となる株主区分の確認が先になる。
父の隆が持つ会社の株式を、生前に受け継ぐか考えている娘の沙希は、「評価方法が変わるかもしれない」という記事を見つけた。父は今のうちに手続きを終えたい。弟の智也は「改正後に安くなるなら待とう」と話す。しかし、家族は現在の株価も、誰が議決権を持つかも確認できていなかった。
以下は架空の家族と説明用の数字である。非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)の評価の見直しについては、会議での提案、正式な改正、適用される課税時期を分けて読む。未確定の情報だけを理由に、今の申告を止めたり、株式移転を急いだりしない。
2026年10月25日に国税庁の公表一覧と現行の財産評価基本通達を確認した。有識者会議は9月16日の第6回資料まで公開されている。会議資料・報道に示される検討案を、申告に適用する改正通達と取り違えず、課税時期に適用する公式の評価ルールで試算する。

株式を受け取る人と議決権を確認してから、評価方法を選ぶ
非上場株式の相続税評価は、相続・遺贈(遺言で財産を渡すこと)・贈与で取得した取引相場のない株式について、財産評価基本通達に従って価額を計算する手続だ。出発点になるのは会社の決算書ではなく、「誰が取得したか」という一点である。
まず、株式を受け取る人が、税のルールで「同族株主等」に当たるかを確認する。当たる場合は原則的評価方式、同族株主以外の株主等が受け取る場合は、一定の条件のもとで配当還元方式を使う。
会社の規模や受け取る株数だけを見て、計算方法を決めないようにしたい。「大会社だから類似業種比準」「少数株だから必ず配当還元」と先に決めると、計算を最初からやり直すことになる。
株主区分の判定には、株主名簿、議決権割合、同族関係者の範囲、役員構成が必要になる。決算書より先に、この資料が要る。
原則的評価方式の中で、さらに計算が分かれる
原則的評価方式に入った後も、計算は一本道ではない。会社規模によって、類似業種比準価額、純資産価額、両方式の併用のどれを使うかが変わる。類似業種比準価額の計算は、国税庁の現行通達180等で確認する。会社規模の判定には業種、総資産、従業員数、取引金額が関係する。
さらに、特定の評価会社に当たる場合は、通常の会社とは別の評価方法になることがある。
| 確認項目 | 主な内容 | 評価への関係 |
|---|---|---|
| 受け取る人の株主区分 | 同族株主、中心的な同族株主、役員、議決権割合 | 原則的評価か配当還元方式かの入口 |
| 会社規模 | 業種、総資産、従業員数、取引金額 | 類似業種比準・純資産・併用割合に関係 |
| 特定の評価会社 | 株式・土地の保有割合、開業後年数、比準要素、休業・清算 | 通常の会社とは別の評価方法になる場合がある |
| 資産負債 | 土地、有価証券、保険、貸付金、借入れ、含み損益 | 純資産価額と特定会社判定に影響 |
ここで一度立ち止まってほしい。特定の評価会社の判定は、資産の構成比を確認しないと始まらない。土地や株式を多く保有している会社が、そのまま通常の計算式で進んでしまうと、後から組み直しになる。決算書の資産の部を開いて、何がどのくらいの割合を占めているかを先に見ておく必要がある。
例えば、正しい株主区分等を判定した後の試算が1株3万円で、取得対象が200株なら600万円となる。別の適法な条件で1株4万円となれば800万円だが、差の200万円は税額ではなく財産評価額の差である。ここで示す数字は計算例で、将来の改正内容や減税額の予測ではない。
沙希は「見直しで200万円得をする」とは考えず、現行ルールでの受け取る人別の評価、遺産全体の税額、手元資金を確かめることにした。同じ会社でも取得者や前提が違えば評価方式が変わるため、改正の話より先に現在の条件を整理する必要がある。
会社が3年以内に取得した土地・建物の評価を確認する
純資産価額の計算に関連して、「3年ルール」という言葉が出てくる。財産評価基本通達185は、評価会社が課税時期前3年以内に取得・新築した土地や建物について、原則として路線価等や固定資産税評価額ではなく、課税時期の通常の取引価額で評価すると定めている。国税庁の現行通達185で、対象資産と帳簿価額を使える条件を確認できる。
3年以内の取得だから帳簿価額を自動的に使えるわけではない。ただし、帳簿価額が課税時期の通常の取引価額に相当すると認められる場合には、その帳簿価額によることもできる。取得時期・取得価額と課税時期の時価資料を並べ、帳簿を使う根拠を確認する。
2026年10月25日に確認した現行通達185の本文は「課税時期前3年以内」としている。5年など別の期間に関する情報を見たときは、検討案か、適用日まで定めた正式な改正かを確かめる。申告では自分の課税時期に適用する規定を使う。

検討資料と、申告に適用するルールを区別する
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、2026年4月20日に第1回を開催し、10月25日の公表一覧では9月16日の第6回まで資料が掲載されている。会議が開かれた事実と、評価方式の改正・施行は別に確認する必要がある。
委員の意見、研究者の提案、報道の予測を、そのまま確定した制度として扱わない。改正情報を読むときは、対象の方式、課税時期、適用開始日、経過措置(新しい制度に切り替わるときの特別な扱い)が正式な通達等に示されているかを確認する。
類似業種比準方式・配当還元方式や不動産の取得期間の見直しについても、提案の内容と適用される規定を分けて確かめる。
申告の準備では、まず課税時期に適用する財産評価基本通達を確認する。検討の動きは国税庁の有識者会議の公表一覧で追い、税制改正大綱や正式な改正通達の内容と照らし合わせる。未確定の適用時期だけを理由に贈与・組織再編・不動産取得を急がず、会社法や所得税・法人税も含めて実行前後を比較する。
評価ルールを公式資料から確かめるのは、同じ条件の財産を一貫した基準で課税し、申告の前提をそろえるためでもある。委員の問題提起を既に適用される通達と思うと、家族の試算と実際の申告が食い違う。変更があれば、正式な内容と適用日を確認して試算を更新する。
今そろえる資料と、試算・納税資金の確認順序
制度の行方が見えないからといって、手を止める必要はない。現行ルールで動かせる確認は、今日から始められる。
株主関係を紙に出す
株主名簿、議決権割合、同族関係者の範囲、役員構成を整理する。計算の入口となる株主区分の判定は、この資料がなければ始まらない。「誰が何株持っているか」を紙に出すことが、評価の最初の一歩になる。
現行ルールで株価を試算する
直近3期程度の決算書・法人税申告書、資産負債明細、土地・有価証券の時価資料をそろえる。株主区分と会社規模が確定してから、どの評価方式が適用されるかを確認し、試算を進める。特定の評価会社に当たる可能性がある場合は、資産構成比の確認を先に行う。
納税資金を株価とは別に確認する
株価の試算が出ても、相続人個人が納税資金を持つとは限らない。配当、自己株式取得、売却、借入れ、延納・物納、事業承継税制を別々に比較する必要がある。株価の計算と納税資金の確保は、並行して動かす別の問いだ。非上場株式の相続税が払えないときの選択肢では、手段ごとの条件と手順を整理している。
会社側の手続も並行して確認する
経営者が亡くなった場合、株式の評価と並行して、会社としての手続も動く。代表者の変更、金融機関への届出、保証債務の扱いなど、相続人個人の手続とは別の確認が必要になる。会社経営者が死亡したときの株式・保証・会社手続と、相続した非上場株式を発行会社へ売却するときの手続と税金も、状況に応じて確認しておきたい。
決算書を眺めていても評価額は出てこない。最初に動かすのは、株主名簿と直近の決算書を並べて、受け取る人の株主区分を確かめることだ。そこから計算の入口が決まり、必要な資料が見えてくる。改正の動向は公式資料で追いながら、今の申告は現行通達で進める。この二つを分けて持つことが、今できる最も確実な準備になる。
隆家では、沙希が株主関係図と決算資料を集め、智也は公式の公表資料を確認することにした。父が望む早い承継と、子が求める費用の見通しは、未確定の改正を言い合うだけでは比べられない。まず現行条件の試算を一つ作り、引き継ぐ時期・経営権・納税資金をそろえて検討する。
ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
会議の提案は今の申告にそのまま使うか
検討資料と正式な改正を区別し、自分の課税時期に適用する通達を確認する。
公表資料はいつまで確認したか
2026年10月25日の国税庁公表一覧では、9月16日の第6回資料まで掲載されている。
3年以内の不動産は必ず帳簿価額を使えないか
通常の取引価額で評価するが、帳簿価額がそれに相当すると認められる場合は帳簿価額によれる。
見直しを待って試算を止めるべきか
株主区分、会社規模、資産負債を確認し、現行ルールで試算する。改正の適用時期は別に確認する。
この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。



