海外資産の相続は、財産の調査、現地での権利移転、日本の課税範囲と申告を並行して進める。現地の相続手続が終わったら日本の申告を始める、という順番では期限に間に合わないことがある。
架空の家族で考えよう。父の修平が亡くなり、娘の真衣が書類を整理すると、英国の銀行からの通知と、別の国にある部屋の管理契約が出てきた。
母の静江は「管理会社に任せれば大丈夫」と話し、弟の亮は「口座を全部解約してしまおう」と急ぐ。真衣は、誰が解約や売却を申し込めるのかも分からなかった。
これは、手続を説明するための架空例だ。まず、財産があるか、その権利者は誰か、誰が手続をできるかを分けて調べる。
同じ「海外の財産」でも、国や金融機関によって手続は違う。
海外にある財産を引き継ぐには、国・資産・名義・現地窓口を一覧にし、必要な翻訳・認証と権利移転を確認する。日本の協議書だけで現地手続も終わるとは考えない。
国・種類・名義・連絡先を一覧にする
銀行や証券会社の通知、申告書の控え、送金記録、権利証、管理会社との契約、配当や賃料の明細を調べる。スマートフォンのアプリやメールも手がかりになるが、アプリが入っているだけで、亡くなった時の財産や残高まで確定するわけではない。
海外預金では、銀行名、口座を受け入れた支店、通貨、残高、名義人を確かめる。
銀行のブランド名だけでは、取引先の国・法人・支店までは分からないことがある。死亡後の正式な照会方法、残高証明、必要書類と、原本を返してもらえるかを銀行へ尋ねよう。
証券口座では、口座内の現金、株式、投資信託等を分ける。日本の証券会社の報告書に外国株式が含まれる場合も、外国の証券口座に日本法人の株式がある場合もある。日本の相続税上の財産所在地は、単に証券口座を開いた国で決まるわけではない。
不動産では、権利証や現地の登記、取得契約、持分、ローン、賃貸・管理の契約を確かめる。
個人名義か会社名義かによっても、引き継ぐ権利は変わる。共有や信託等が関わる場合もある。管理会社がいても、相続の法律手続をすべて代理できるとは限らない。
生命保険では、保険会社、契約者、被保険者、受取人を確かめる。指定された受取人が請求できる保険金と、遺産として引き継ぐ財産は、分けて考える。
日本の税法上は、相続したとみなされる保険金もある。現地の制度と契約を調べず、全部を分割対象、全部を非課税とは決めない。
真衣は、財産一覧の「確認済み」と「手がかりだけ」を別の欄にした。亮が見つけた残高の画像も、通貨・作成日・名義を確かめ、亡くなった時の証明書と混同しないようにした。
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現地で誰が手続をできるか確認する
どの国の法律で相続を考えるかは、亡くなった人の国籍等から調べる。日本の通則法36条では、その人の本国法が出発点となる。
ただし、その国の法律から日本法の適用に戻る「反致」や、現地の国際私法、財産ごとの制度等も確認が必要だ。日本の戸籍と協議書だけで、どの国でもすぐに名義変更できるわけではない。
現地の銀行や登記機関へ、相続人の合意だけで進められるかを尋ねる。遺言を実行する人等の権限を示す文書や、裁判所の手続が必要な場合もある。
遺言の有無、共有の形、受取人指定、財産額等によって、必要な手続は変わり得る。
例えば、英国政府の案内にある「probate」は、亡くなった人の財産を扱う法的な権限に関する制度だ。
必要かは、各金融機関等へ確かめる。英国でも地域によって制度が違い、海外口座すべてに一律に必要な手続ではない。
日本の遺言書の検認は、遺言書の状態等を確認・保全する手続である。外国のprobateを日本の「検認」とだけ訳して、同じ効力の手続と思わない。現地の書類名、発行機関、誰にどの権限を与えるかを確認する。
静江が受け取りたい賃料についても、管理会社に振込先だけを変えてもらう前に、誰が取得し、誰が受領・管理する権限を持つかを確かめる。窓口担当を真衣にしたことだけで、財産や収入が真衣のものになるわけではない。
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翻訳・認証の条件を先に確認する
書類を作る前に、提出先へ必要条件を尋ねる。書類名、発行からの期間、原本か写しか、訳文の言語、翻訳者の資格、認証方法、原本返却の可否を確かめよう。
戸籍のほかにも、死亡や婚姻・親子関係、住所、署名等を示す書類が必要になることがある。
外務省の「アポスティーユ」は、日本の公文書等の公印に関する証明で、ハーグ条約の締約国向けに使う。条約が適用されるかと、提出先が求める証明を確かめる。
公印確認の後、外国の大使館等の領事認証を受ける方法とは区別しよう。英訳しただけで、認証も済むわけではない。
遺産分割協議書は、相続人が合意した分け方を記す書類だ。通常は、個人が作る「私文書」に当たる。
その原本を外務省へ送るだけで、直接アポスティーユが付くわけではない。必要なら、公証人の認証、法務局長の公証人押印証明等を経る方法を確かめる。一部の公証役場では、これらをまとめて取れるワンストップサービスもある。
認証は、文書の公印・署名等が本物かに関する証明だ。分け方が適法か、全員が納得したか、税額が正しいかまで保証するものではない。
外国語の条件を家族が理解できる説明も、別に必要となる。
真衣は、まず金融機関と現地の専門家へ、必要書類と認証の順序を確かめた。
その回答と、氏名の綴り、旧姓、日付を照らし合わせてから、公証や翻訳を手配することにした。
真衣が、銀行へ必要書類を問い合わせた後の例だ。返事待ちの項目と、今できる仕事を分けよう。
手続をする権限
↓
必要な書類・翻訳・認証
↓
現地での手続と期限
回答前に、全書類の翻訳や口座の解約を急がない。
手元の財産・借入資料を整理
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課税範囲と評価資料を確認
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申告が必要か、期限を確認
未取得の資料と返答予定も、税理士へ伝える。
日本で相続税の申告・納税が必要なら、原則、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内だ。現地の手続が終わらないだけで、自動的には延長されない。
日本法による放棄等の判断は、原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月以内だ。調査が間に合わなければ、期間内の家裁への延長申立て等を検討する。
海外にある財産も日本の相続税の対象かを確認し、亡くなった時の評価と資料を並行して集める。 海外資産の相続税|課税範囲・財産の評価・外国税額控除で詳しく確認できる。
放棄の判断と、税務の期限を確認
日本で相続税の申告・納税が必要なら、原則、相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内だ。
現地の手続が続いているだけでは、期限は止まらない。税理士には、手元の資料に加え、まだ取れていない資料、問い合わせ先と返答予定も伝える。
借入、保証、管理費の未払い等も調べ、引き継ぐ財産と負担の全体を確かめる。
日本法による相続放棄等の判断期間は、原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月だ。調査が間に合わなければ、期間内に家庭裁判所への延長申立て等を検討する。
日本の相続放棄をしたことで、外国の全機関が何の手続もなく自動的に同じ処理をするとは限らない。準拠法、現地での効力や必要な手続を確認する。放棄を考えているなら、先に海外口座の払戻しや財産の売却を独断で進めない。
国外財産調書と、亡くなった年・相続後の所得の申告も、相続税の申告とは別に確かめる。
海外で手続があっても、日本側を後回しにはできない。日本で申告しても、現地の手続まで済むわけではない。
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次に確かめることを一件ずつ決める
- 財産の国・種類・権利者・持分・借入等を一覧にする。
- 機関ごとの正式な相続窓口と、照会・払戻しに必要な権限を確認する。
- 亡くなった時の残高・価格・TTB等の資料を集め、証明日と対象日を記録する。
- 日本と現地の申告・裁判・名義変更等の担当者と期限を分ける。
- 翻訳・公証・認証は、提出先が求める種類と順序を確認して手配する。
修平家では、真衣が窓口ごとの必要事項を管理し、亮が書類を探し、静江は部屋を維持する場合の収入と支出を整理することにした。解約を急ぐことより、手続をする人の権限と、家族に残る財産・現金を確かめることが先だった。
外国法人の株式等が見つかった場合は、非上場株式(証券取引所に上場していない会社の株式)の相続手続も確認したい。認証方法は外務省の案内、英国の権限手続の例は英国政府のprobateの案内を参照する。個々の国・財産への適用は現地資料から確認する。
ほかにも確認する手続がある場合は、保険・金融資産・デジタル・海外の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
海外資産は日本の相続税の対象になりますか
亡くなった人と受け取る人の住所・国籍・居住歴・在留資格等の区分、財産所在地により判定する。国外にあるというだけで対象外にはならず、日本居住という一つの情報だけで全事案を同じ結論にもできない。
海外資産の相続税申告はいつまでにすればよいですか
日本の申告・納税が必要なら原則として相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内である。現地の手続が未了でも自動的には延長されない。現地の期限は別に確認する。
現地で相続税に相当する税金を払った場合、二重課税になりますか
国外財産に課された相続税に相当する外国税について、条件と限度のある外国税額控除等を確認する。全額が必ず控除される制度ではなく、税と受け取る人、対応する財産を資料で確かめる。
遺産分割協議書を海外の機関に提出する際に必要なものは何ですか
原本・訳文・署名証明・認証等の条件を提出先へ確認する。協議書は私文書なので、必要な場合は公証人の認証や法務局長の証明等を経る方法を調べる。外務省が私文書をそのまま直接認証するとは限らない。
相続放棄は海外資産にも適用されますか
日本法による相続放棄は、国内財産だけ、借金だけを選ぶ手続ではない。ただし海外の権利に対する効力や現地手続は準拠法等を別に確認する。原則3か月の熟慮期間内に、必要なら家裁への伸長申立て等を検討する。



