相続人調査とは、亡くなった方(被相続人)の戸籍を出生から死亡まで遡ることで、法律上の相続人を漏れなく特定する手続きとされています。
結論から言うと、相続人調査は被相続人の本籍地から戸籍謄本を取り寄せることが起点となり、一人でも相続人の把握が漏れると遺産分割協議そのものが無効になる可能性があります。
「うちは子どもが二人だけだから、相続人なんてすぐわかる」──そう言い切れる家族は、実のところ、思っているより少ないかもしれない。
父が再婚前に子どもを設けていた。祖父の遺産がまだ未分割のまま残っていた。音信不通になって30年の兄弟が、じつは法定相続人として堂々と名前を連ねていた。こういう事態は、決して珍しくない。
相続人って、家族だけじゃないのか……?知らない人間が出てきたらどうするんだ。
相続人の調査を甘く見ていると、遺産分割協議が終わったあとに「参加していない相続人がいた」という事実が発覚し、せっかくの合意が根こそぎ無効になる。民法887条から895条にかけて、誰が相続人になるかは法律がきっちり決めている。感情や常識ではなく、戸籍という冷徹な紙切れが、真実を支配しているのだ。
で、結論から言うと
相続人調査の核心は、「戸籍の連鎖を死ぬ気で追いかける」こと、これだけだ。
被相続人の出生から死亡まで、連続したすべての戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍を取り寄せる。それを一枚一枚読み解き、子の存在・養子縁組・認知・前婚・廃除・欠格を確認する。このプロセスを丁寧に積み上げることで初めて、法律上の相続人が「全員」確定する。
遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ無効(民法907条)。一人でも欠けると、後からその人物に協議のやり直しを迫られる可能性がある。つまり、相続人調査の精度が、その後のすべての手続きのクオリティを決定する、と言っても過言ではない。

「知らない相続人」が潜んでいる、その理由
なぜ「家族の顔が見えている範囲」だけで相続人を把握しようとすると、痛い目に遭うのか。それは、相続人の範囲が、感情的な「家族の絆」ではなく、法律と戸籍という客観的な事実によって決まっているからだ。
具体的に、こういう「盲点」がある。
- 婚外子(非嫡出子)の存在:父が認知した子どもは、婚内子と同等の相続権を持つ(民法887条1項)。認知の事実は戸籍に記載されているが、現在の家族が把握していないケースは少なくない。
- 前婚の子ども:離婚した元配偶者との間に子がいれば、その子も立派な第一順位の相続人だ。親権がなくても、相続権は消えない。
- 養子縁組:故人が過去に養子縁組をしていた場合、その養子も相続人になる(民法809条)。老後に世話になった人物との縁組が、こっそり戸籍に刻まれていることがある。
- 代襲相続人:本来の相続人(子・兄弟姉妹)が被相続人より先に亡くなっていた場合、その子(孫・甥・姪)が代襲して相続人となる(民法887条2項、889条2項)。
これらは全部、戸籍を読めばわかる。逆に言えば、戸籍を読まなければ、絶対にわからない。
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相続人調査の具体的な手順。これが実践ステップだ
では、実際にどう動けばいいのか。ステップに落とし込もう。
ステップ1:被相続人の死亡時の戸籍を取得する
まず、亡くなった方が最後に本籍を置いていた市区町村の役所へ行き、「死亡時の戸籍謄本(全部事項証明書)」を請求する。ここが起点だ。窓口で「相続手続きのため、出生まで遡って取得したい」と伝えると、案内してもらいやすい。
ステップ2:出生まで「転籍」を遡る
戸籍は転籍や婚姻・改製のたびに新しく編製される。一つの戸籍には、その前の本籍地が記載されているので、それを手がかりに過去の役所へ順番に請求していく。この「転籍を遡る作業」が、実質的に最もタフなパートだ。複数の市区町村・都道府県をまたぐ場合は、郵送請求を活用するとよい。
ステップ3:相続人それぞれの現在の戸籍を確認する
相続人の候補者が特定できたら、その方々の「現在の戸籍謄本」を取得し、相続開始時点で生存していることを確認する。相続人が先に死亡していれば、代襲相続の有無を確認する必要が生じる。

ステップ4:法定相続情報一覧図を作成・申請する
法務局に「法定相続情報証明制度」がある。戸籍の束を一枚の一覧図に整理し、法務局の認証を受けることで、各種金融機関や不動産登記の手続きで戸籍原本の束を何度も出し直す手間が省ける。複数の金融機関に口座がある場合は、この一覧図の取得が体力的な節約になる場合がある。
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調査の結果、相続人が行方不明だったとき
相続人が特定できたはいいが、連絡が取れない。行方がわからない。こういうケースも、現実には起きる。
この場合、感情に任せて「あの人は放棄してるから」と協議を進めてはいけない。相続放棄は家庭裁判所への申述が必要であり(民法938条)、当事者間の話し合いで「放棄する」と言っただけでは、法的には何の効力も持たない。
行方不明の相続人がいる場合は、家庭裁判所に「不在者財産管理人の選任」を申し立てる方法(民法25条)、あるいは7年以上の生死不明であれば「失踪宣告」の申し立て(民法30条)という選択肢がある。いずれも、協議を「全員参加」の形に近づけるための手段だ。
相続人調査が終わったら、次にやること
相続人が確定したら、ようやく遺産分割協議のスタートラインに立てる。ここで一つ、知っておきたいことがある。遺産分割協議に法定の完了期限はない。「10ヶ月以内に終わらせなければならない」というルールは存在しない。ただし、相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税法27条)であり、この期限までに分割が整っていると、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)を申告時点で適用しやすくなる、という実務的な背景がある。
また、相続放棄を検討している場合は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述する必要がある(民法915条、938条)。負債の全貌が見えないまま期限が迫るときは、家庭裁判所に期間の伸長申請ができる場合もある(民法915条1項但書)。
相続手続きの流れを知らなかった人間の、3ヶ月後
相続手続きの流れとは、被相続人の死亡後に発生する一連の法的・税務的手続きの総称で…
相続人調査をきちんと終えた後。「全員が揃っている」という事実は、その後のすべての手続きを、驚くほど落ち着いたものにしてくれる。
戸籍を全部取り寄せたら、ちゃんと全員わかった。これで協議を始められる。
あの複雑に絡み合った戸籍の束が、一枚の法定相続情報一覧図に整理された瞬間、なんとも清々しいスッキリ感がある。「全員を把握した」という事実は、それだけで次のステップへの強力なパスポートになる。
けっこうオススメです。戸籍を丁寧に追いかけること。伝わりましたかね。
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よくある質問
相続人調査は自分でできますか
戸籍謄本・除籍謄本・改製原戸籍は、相続人本人であれば役所の窓口や郵送で請求できるとされています(戸籍法10条の2)。複数の市区町村に本籍が及ぶ場合や戸籍の読み解きが難しい場合は、司法書士・弁護士への依頼も選択肢の一つとなります。
相続人の人数に制限はありますか
法律上、相続人の人数に上限はありません。代襲相続や兄弟姉妹が多数いる場合、相続人が数十名になるケースも見られます。全員が遺産分割協議に参加する必要があるため(民法907条)、早期の相続人調査が有益とされています。
戸籍謄本はどこで取得できますか
被相続人の本籍地の市区町村役所で取得できます。郵送請求も可能な場合が多く、その際は定額小為替と返信用封筒が必要とされることが一般的です。なお、マイナンバーカードを持っている場合はコンビニ交付が利用できる市区町村もあります。
相続人が認知症の場合、遺産分割協議はどうなりますか
意思能力が不十分な状態での遺産分割協議は無効となる可能性があります(民法3条の2)。この場合、家庭裁判所に成年後見人の選任を申し立て、後見人が本人に代わって協議に参加する方法が取られることが多いとされています。
相続人が遺産分割協議を拒否した場合はどうなりますか
相続人の一人が協議に応じない場合、他の相続人は家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます(家事事件手続法244条)。調停が不成立の場合は審判手続に移行し、裁判所が分割方法を決定する場合があります。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。





