遺留分を請求したとき、相続税の修正申告が必要になる仕組み

遺留分とは、一定の相続人に対して民法上保障された最低限の遺産取得割合のことであり、遺言によっても侵害することができないとされています(民法1042条)。また、相続税の修正申告とは、一度提出した相続税申告書に誤りや計算の変動があった場合に、正しい税額に訂正して再申告する手続きとされています(相続税法32条、国税通則法19条)。

結論から言うと、遺留分侵害が発覚した後に遺産分割が変動した場合、すでに提出済みの相続税申告書を修正申告または更正の請求によって正しい税額に修正できる可能性があり、「遺留分を主張したら相続税はどうなるのか」という流れを事前に把握しておくことが、混乱を最小限に抑える鍵とされています。

遺留分という言葉を、どこかで聞いたことがあるだろうか。「なんとなく知っている」という方は多い。ただ、「実際に自分が遺留分を主張したとき、相続税の申告書はどうなるのか」まで考えたことがある方は、ほぼいない。

これが、落とし穴だ。

遺言書が出てきた。財産の大半が特定の相続人に渡る内容だった。当然、残された相続人は黙っていない。遺留分侵害額請求権を行使する。ここまでは教科書どおり。

問題は、その後だ。

焦り顔

遺留分を請求したのはいいけど……申告書、このままでいいの?

で、結論から言うと

遺留分侵害額請求の行使によって実際の取り分が変わったとき、すでに提出した相続税申告書は「修正申告」または「更正の請求」によって、正しい税額に修正できる可能性がある。

そしてこの修正申告、タイミングを逃すと、本来払わなくていいはずの税金を払い続ける羽目になることがある。

逆に。払うべき税額が増えているのに無申告のままでいると、後から加算税という名の追い打ちが降ってくる可能性もある。

つまり、遺留分と修正申告は、切っても切れない運命共同体なのだ。

遺留分という名の「最低保障ライン」が存在する理由

まず、遺留分の基本から整理する。

民法1042条が定める遺留分とは、一定の相続人に保障された「最低限もらえる遺産の割合」のことだ。被相続人が遺言でどれだけ自由に財産を処分しようとも、この割合だけは侵害できないとされている。

遺留分を持つのは、配偶者・子(直系卑属)・直系尊属。兄弟姉妹には遺留分はない(民法1042条)。

割合は、こうだ。

  • 相続人が直系尊属のみ:遺産の3分の1
  • その他の場合:遺産の2分の1

そしてこの遺留分を侵害された相続人が取れる手段が、「遺留分侵害額請求権」(民法1046条)だ。侵害した相手に対して、金銭の支払いを請求できる。現物で寄越せ、ではなく、金銭で解決する仕組みに、2019年の法改正で整理された点は押さえておきたい。

ただし、この権利には時効がある。相続開始と遺留分侵害を「知った時」から1年、相続開始から10年という二重の時効が設けられている(民法1048条)。請求権を行使するつもりなら、のんびり構えていると権利そのものが消える、という現実がある。

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遺留分が動くと、相続税の申告書が揺れる

では、ここからが本題だ。

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10ヶ月以内(相続税法27条)。多くの場合、遺留分をめぐる話し合いがまだ決着していない段階で、この申告期限が迫ってくる。

このとき、どうするか。

答えは、「いったん分割前の状態で申告する」だ。遺産分割協議が未了のまま申告期限を迎えた場合、法定相続分で仮の申告(未分割申告)ができる(相続税法55条)。「分割が終わるまで申告できない」は、誤りだ。

そして、後から遺留分侵害額請求が認められ、実際の取り分が確定したタイミングで、修正申告または更正の請求によって税額を正しく直すことができる(相続税法32条、国税通則法23条)。

修正申告とは、税額が増える方向へ訂正するもの。更正の請求とは、税額が減る方向へ訂正するもの。遺留分を受け取ることになった側は取り分が増えるため修正申告の対象に、逆に財産を返還した側は取り分が減るため更正の請求の対象になる可能性がある。

ここで要注意なのが、配偶者の税額軽減(相続税法19条の2)や小規模宅地等の特例(租税特別措置法69条の4)だ。これらは原則として申告期限までに分割が必要だが、「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、後から適用できる場合がある。未分割申告のまま放置すると特例が使えなくなるリスクがあるため、見込書の提出は忘れずに行いたい。

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遺留分と修正申告:具体的に動くべきステップ

「知識はわかった。で、何をすればいいのか」。ここを整理する。

図解

ステップ1:遺留分侵害の有無を確認する

遺言書の内容と、法定相続分・遺留分割合を照合する。財産目録があれば試算は比較的シンプルだ。遺留分の計算には、みなし相続財産(生前贈与を含む)が関係する場合があるため(民法1043条・1044条)、贈与の履歴も把握しておきたい。

ステップ2:申告期限前に「未分割申告」と「見込書」を提出する

遺留分の解決に時間がかかりそうなら、申告期限(10ヶ月)までに未分割申告を行い、特例の適用を守るために「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する。

ステップ3:遺留分が確定したら速やかに修正・更正を行う

遺留分侵害額請求が和解や判決によって確定した場合、税額に変動が生じることがある。取り分が増えた相続人は修正申告を、取り分が減った相続人は更正の請求を行う。更正の請求には、その事由が生じた日の翌日から4ヶ月以内という期限が設けられている場合がある(相続税法32条)。この期限もまた、見逃すと損をする類のものだ。

ステップ4:加算税・延滞税のリスクを把握する

修正申告が必要な状況にもかかわらず、放置した場合、過少申告加算税や延滞税が発生する可能性がある。「知らなかった」では済まない可能性があるため、遺留分の確定と同時に税務上の手続きも動かすのが賢明だ。

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よくある質問

遺留分侵害額請求をしたら、必ず修正申告が必要ですか?

遺留分侵害額請求の結果、実際の取り分に変動が生じた場合、相続税の税額も変わる可能性があります。取り分が増えた側は修正申告の対象となる場合があり、取り分が減った側は更正の請求の対象となる場合があります(相続税法32条)。ただし、金額や状況によって異なるため、個別の判断が必要です。

遺留分侵害額請求権の時効はいつまでですか?

遺留分侵害額請求権の時効は、相続の開始と遺留分が侵害されていることを知った時から1年、相続開始から10年とされています(民法1048条)。特に「知った時から1年」は短いため、遺言書の内容を把握した段階で速やかに対応を検討することが望ましいとされています。

未分割申告をしたまま放置するとどうなりますか?

未分割申告のままでは、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が適用されない可能性があります。ただし、申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくことで、特例を後から適用できる場合があります(租税特別措置法69条の4)。分割が長引きそうな場合は、見込書の提出を忘れないことが重要とされています。

遺留分の請求は家庭裁判所に行かないとできないですか?

遺留分侵害額請求は、相手方への意思表示(内容証明郵便など)によって行うことができ、必ずしも家庭裁判所への申立が最初に必要なわけではありません(民法1046条)。ただし、話し合いが決裂した場合は、家庭裁判所の調停や訴訟に移行することがあります。

相続税の更正の請求には期限がありますか?

遺留分の確定など一定の後発的事由による更正の請求は、その事由が生じた日の翌日から4ヶ月以内に行う必要があるとされています(相続税法32条)。この期限を過ぎると還付を受けられなくなる可能性があるため、遺留分の確定と同時に税務手続きも確認することをお勧めします。

「知っていた」と「知らなかった」では、税額が変わることがある

遺留分を主張することは、法が認めた正当な権利行使だ。問題は、その権利を行使した後に「税務上の手続きも動かさなければならない」という事実を、多くの人が見落としていることにある。

遺留分が確定した。ひとまず解決した。ほっとひと息──ではなく、そこから修正申告または更正の請求という第二ラウンドが始まることを、頭の隅に置いておいてほしい。

更正の請求の期限は4ヶ月。これを知っているかどうかで、還付される税金が手元に戻るかどうかが変わる可能性がある。

ホッとした顔

遺留分の流れと申告の関係、ちゃんと整理できた。あとは動くだけだ。

「遺留分を請求したら、税務上の手続きも忘れずに確認する」。これだけ持って帰ってもらえれば、この記事の役割は十分果たせたと思う。

伝わりましたかね。

よくある質問

※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法律・税務アドバイスではありません。具体的な判断は必ず弁護士・税理士などの専門家にご相談ください。

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