相続した非上場株式を売却する方法|発行会社買取り・税金・特例

相続した非上場株式を売却する方法|発行会社買取り・税金・特例

父が持っていた会社の株式を相続したが、自分は経営に関わっていない。相続税の納税や遺産の清算のために売りたいのに、証券会社では扱ってもらえず、会社から示された価格が妥当なのかも分からない。非上場株式の売却では、こうした問題を一つずつ整理する必要がある。

最初に確認するのは、何株を誰が相続したか、誰が買うのか、売却にどの手続と税金が伴うかの3点だ。相続税の評価額だけで売買を決めず、売却後の手取りと期限まで見通して交渉を進めたい。

同じ株式でも、評価額・売却価格・取得費は別の数字になる

数字の種類 使う場面 確認する資料
相続税評価額 相続税を計算する 株式の評価明細、相続税申告書、決算資料
売却価格 買い手と代金を交渉する 会社の収益・純資産、議決権、配当、買い手の条件
取得費 売却益に対する所得税を計算する 故人の購入契約書、払込資料、増資・株式分割等の記録

相続税では、取得する人の株主区分や会社規模などによって評価方法が変わる。大会社は原則として類似業種比準方式、小会社は純資産価額方式、中会社は両方式の併用が基本となる。同族株主以外の一定の株主には配当還元方式が用いられ、土地保有特定会社などでは別の扱いもある。

一方、買い手は、実際に配当を受けられるか、経営に関与できるか、将来売却できるかも考える。少数の株式と会社の経営権をまとめて取得する場合では条件が違うため、相続税評価額で必ず買い取ってもらえるとは限らない。

評価の入口は国税庁「取引相場のない株式の評価」と、非上場株式の相続税評価で確認できる。会社が価格を提示したときは、金額だけでなく計算の前提も尋ねたい。

交渉の前に、誰がどの株式を売れるのか確かめる

株主名簿、株式数、株式の種類、株券発行の有無を確認し、遺言書や遺産分割協議書と照合する。故人名義だから一人の相続人が全部売れるとは限らない。遺産分割前なら、売却に関与すべき相続人と処分方法を先に整理する。

  • 会社の定款と登記事項証明書。
  • 株主名簿、株券が発行されていれば株券。
  • 直近の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書など、確認できる会社資料。
  • 故人の購入契約書、設立・増資時の払込資料、過去の申告資料。
  • 遺言書、遺産分割協議書、相続税申告書と評価明細。

会社の内部資料をどこまで見られるかは、株主としての権利や請求要件による。必要資料が出てこない場合は、直ちに会社の提示額へ同意せず、資料の請求方法と評価の依頼先を検討する。

買い手は既存株主・第三者・発行会社に分けて検討する

既存株主や経営者に売る

後継者や既存株主は、株式を集めて経営を安定させたい場合がある。買い手の資金、支払いの時期、売却後の議決権割合を確認する。親族間の取引でも、価格の根拠と代金の支払方法を文書に残す。

第三者に売る

事業承継やM&Aの一環として売る方法だ。会社全体の経営権を売るのか、少数株式だけを売るのかで買い手や価格が変わる。会社の債務、保証、許認可、取引先との契約に、株主の変更をきっかけとする制限がないかも確認する。

契約上、売り手が会社の状態を保証したり、後から発覚した問題を補償したりすることもある。経営に関与していない相続人が、把握していない事項まで広く保証する契約には慎重な検討が必要だ。

発行会社自身に売る

発行会社が買い取る方法は自己株式の取得に当たる。会社の意思決定、他の株主との関係、分配可能額という財源の制限を確認する。会社の預金が多いことと、法律上その全額を買取りに使えることは同じではない。

税務では、売却対価の一部が「みなし配当」となる場合がある。第三者へ売る場合と同じ税率を代金全体へ当てはめず、後述の特例を含めて試算する。

相続時の取得と、相続後の売却では承認の問題が違う

譲渡制限株式でも、相続による取得自体は通常の売買とは異なる一般承継であり、譲渡承認の対象ではない。これに対し、相続後に第三者へ売る場合は、定款と会社法136条以下の譲渡承認手続を確認する。承認する機関も会社の機関設計や定款によって異なる。

会社が承認しない場合、所定の請求等を前提に会社や指定買取人による買取りの手続が問題になる。通知、供託、裁判所への価格決定申立てには期限があり、承認されなければ希望価格で必ず買ってもらえる制度ではない。

また、定款に定めがあれば、会社側から相続人へ売渡請求をする制度もある。自分から売却を申し入れる場合とは別なので、会社から通知が届いたら、定款、通知日、総会決議、提示価格を確認する。会社法174条以下の売渡請求への対応を、通常の価格交渉だけで済ませないことが大切だ。

売却益の計算では、故人の取得費を調べる

非上場株式は、所得税では一般株式等に分類される。第三者等への通常の譲渡では、売却代金から取得費と譲渡費用を差し引いた利益を、他の所得と分けて計算する。2026年分の原則的な税率は、所得税・復興特別所得税・住民税を合わせて20.315%だ。売却年の制度は申告時に確認する。

相続した株式の取得費は、限定承認などの例外を除き、故人の取得費を引き継ぐ。相続税の申告で1株10万円と評価しても、故人が1株1万円で取得していたなら、取得費が自動的に10万円へ上がるわけではない。株式分割や増資等があれば調整も必要になる。

取得費が分からない場合、同一銘柄ごとに売却代金の5%を取得費とする方法も認められている。ただ、実際の取得費がそれより高いと分かれば計算結果が変わる。契約書が見つからないという理由だけで調査を終えず、会社の払込記録や故人の申告書も探す。

一般株式等の損失と上場株式等の利益は、原則として自由に相殺できない。証券口座の上場株式で利益が出ているから非上場株式の売却損を全部差し引ける、という前提で売却を決めない。国税庁No.1463No.1464で基本的な扱いを確認できる。

相続税額の取得費加算は、売却した株式に対応する部分を計算する

相続税が課された人が、相続や遺贈で取得した株式を一定期間内に売るなどの要件を満たすと、相続税額の一定部分を取得費へ加算できる。納付した相続税の全額を、今回売った株式の取得費に加える制度ではない。

期間は、相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までだ。一般に約3年10か月と説明されるが、正確な末日は相続開始日と申告期限から計算する。特例を使う前の譲渡益が加算額の上限となり、この特例だけで譲渡損失を作ることはできない。

仮定例として、売却代金2,000万円、引き継いだ取得費200万円、譲渡費用50万円なら、特例適用前の利益は1,750万円となる。この株式について加算できる相続税額が100万円と確認できた場合、利益は1,650万円になる。株式の相続税評価額そのものを取得費に置き換える計算とは違う。

適用には確定申告と所定の計算明細等が必要になる。国税庁「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を確認し、売却前に相続税申告を担当した税理士へ試算を依頼すると、価格交渉の目安を持ちやすい。

発行会社への売却では、譲渡日までの届出を忘れない

発行会社へ売る場合、通常は対価のうち、その株式に対応する資本金等の額を超える部分がみなし配当となり得る。一方、所定の相続株式について特例を使えば、みなし配当課税をせず、対価の全額を株式譲渡の収入として扱える。

  • 売り手が相続または遺贈により財産を取得した個人で、その相続等について納付すべき相続税額がある。
  • 売る非上場株式が、その相続税の課税価格の計算の基礎に算入されている。
  • 相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日までに、発行会社へ譲渡する。
  • 譲渡日までに、所定の届出書を発行会社へ提出する。

「相続した株だから使える」「確定申告のときに届出を出せばよい」という理解では要件を落とす。売り手から会社への提出は譲渡日まで、会社から税務署への提出は譲り受けた年の翌年1月31日までで、別の期限だ。会社への提出日が分かる控えも残しておく。

この特例と取得費加算は、各要件を満たせば併用できる。国税庁No.1477届出手続A2-31を基に、売り手・会社・税理士の誰が何を用意するかを決めてから実行する。

納税猶予を使っている場合は、手取りを別に試算する

事業承継税制による納税猶予は、相続税が最初からなかったことになる制度ではない。株式の譲渡などにより、猶予税額の全部または一部と利子税の納付が必要になることがある。利用している制度、認定書、継続届出書を確認し、継続・免除等の条件を整理する。

売却代金から、譲渡に伴う税金、専門家費用、必要に応じて猶予税額等を差し引いた額を計算する。分割払いなら、税金を納める時期までに必要な現金が入るかも確認したい。

契約前に決めておくこと

  1. 売り手、株式数、種類、遺産分割の状況を確定する。
  2. 定款と必要な承認・決議、株券や名義書換えの手順を確認する。
  3. 価格の根拠、代金の支払日、分割払いなら回収条件を整理する。
  4. 取得費、取得費加算、みなし配当特例、納税猶予の影響を試算する。
  5. 譲渡期限と届出期限を日付で管理し、提出担当者を決める。
  6. 契約上の保証・補償の範囲と、税金を引いた手取りを確認する。

よくある質問

相続税評価額で必ず売却できるか

必ずその価格で売れるわけではない。相続税評価額は税務のための評価であり、売却価格は会社の収益、議決権、譲渡制限、買い手の条件などを踏まえて交渉する。

相続税評価額を所得税の取得費にできるか

原則としてできない。限定承認などの例外を除き故人の取得費を引き継ぐ。要件を満たすと、売却株式に対応する相続税額の一定部分を取得費に加算できる。

会社に売る場合も税率は常に20.315%か

常に同じではない。みなし配当が生じる場合と、その課税を外す特例が使える場合で計算が異なる。2026年分の通常の一般株式等の譲渡益は原則20.315%だが、売却先と適用制度を確認する。

みなし配当の特例は確定申告のときに手続すればよいか

所定の届出書を発行会社へ譲渡日までに提出する必要がある。会社から税務署への提出期限とは異なるため、契約前に担当者と提出日を決める。

会社が買い取ると言えばすぐ契約してよいか

価格だけでなく、会社法上の決議や財源、税務上の特例、代金の支払条件を確認する。会社からの売渡請求であれば、任意の売却交渉とは別の手続も検討する。

本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、相続開始日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律と税務を分けずに確認

相続税申告、相続登記、不動産処分、遺産分割が同時に動く場面を前提に、弁護士・税理士の両面から整理しています。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

確認日

最終更新:

相続の全体整理が必要な方へ

相続税申告・相続登記・不動産処分まで、ひとつの窓口で相談できます。

税理士、司法書士、不動産会社、金融機関に別々に説明する前に、まずは相続全体の地図を作ることが大切です。ATBでは、遺産分割、相続税申告、登記の段取り、不動産や非上場株式の処分までまとめて整理します。

相続ワンストップサービスを見る

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ