代償分割は、家等を一人が引き継ぐ代わりに、ほかの相続人へお金等を渡し、取り分を調整する方法だ。
家を残せる可能性はある。ただし、「払う」と言うだけでは資金は増えない。金額、資金と支払時期を、一緒に考えよう。以下は、架空の兄弟の話である。
「ここは、俺が引き継ぎたい」。兄の和夫がそう言ったとき、弟の彰は首を振らなかった。父が亡くなり、母もすでにいない実家で、和夫は妻と暮らしている。彰が聞きたかったのは、家を取る兄から自分へ、いつ、いくら払われるのかということだった。
「家の半分の値段を払えばいいんだろう」。兄は簡単に言った。だが、机の上には、固定資産税の通知書と不動産会社の査定書がある。書いてある金額が違う。兄は安い方、弟は高い方を見ていた。
家を残し、取り分をお金で調整する
二人で預金を半分に分けるなら、口座からそれぞれへ送金できる。では、遺産が家一軒だったらどうか。台所を兄、寝室を弟のものにしても、それぞれが自由に暮らしたり売ったりできるわけではない。
家を売ってお金にすれば分けやすいが、和夫はそこに住めなくなる。共有にすれば今は支払いが少なくて済んでも、将来、家全体を売るときなどに再び合意が必要になる。土地を二つに分けても、道路へ出られない区画ができるようでは困る。
そこで、建物や土地の利用はなるべく崩さず、取り分の差を別のお金でならすのが代償分割だ。住まいのほか、細かく分けると使いにくくなる事業用の土地などでも考えられる。ただし、家を欲しい人が必ず取得できるという権利ではない。
| 方法 | 家や土地の行き先 | 家族に残る課題 |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産ごとに分ける。土地を分筆して各自が取る場合もある | 使える形に分けられるか、価値に偏りがないか |
| 換価分割 | 売却し、費用などを踏まえて代金を分ける | 退去、売却条件、譲渡所得税など |
| 共有にする | 一つの不動産を持分で持つ | 利用・費用負担・将来の処分や相続 |
| 代償分割 | 一人などが取得し、ほかの人へ代償金を払う | 評価、支払えるだけのお金があるか、支払いの確実性 |
不動産の分け方の比較や、遺産全体の配分も見ながら、最初から代償分割だけに絞らず考えたい。
1.家以外の遺産と、相続人も調べる
和夫は「家が4,000万円だから、弟へ2,000万円」と考えていた。ところが、父の預金が400万円ある。彰がその預金を取るなら、家だけの計算とは差が出る。
預金、有価証券、ほかの土地、借金等を調べ、誰がどれを取り、何を払う案か並べる。
登記事項証明書で家の名義・持分・担保を、通帳や残高証明書で預金を確かめる。戸籍等で、相続人も確認しよう。
家族で借金の負担を決めても、それだけで、お金を貸した人等に対する責任まで、自由に変えられるわけではない。
遺言があるか、ほかの相続人がいないかも先に確認する。和夫と彰だけでよいという前提が違えば、二人だけの約束では遺産分割を終えられない。
2.家の価額と評価方法をそろえる
固定資産税評価額は固定資産税等、相続税評価額は相続税の計算に使う数字だ。
不動産会社の査定は、条件を置いた売却の見込みで、成約価格の保証ではない。不動産鑑定を頼む方法もあるが、費用と前提を確かめる。
種類の違う数字を見たまま、「半分にする」と約束しても、金額はそろわない。
どの不動産を、いつの、どんな根拠の価額で評価するか。先に、この前提をそろえよう。全員が納得する方法を話し合い、争いがあれば鑑定等を検討する。
和夫は、査定書の高い金額に抵抗があった。彰も、兄が住み続ける家を現金と同じに考える難しさは感じていた。二人は、都合のよい一枚だけを出すのをやめ、査定の条件と修繕の必要性を一緒に確認することにした。
税金を計算するときの評価と合意の価額を混ぜた場合の計算は、代償分割の相続税・譲渡所得の注意点で説明している。
3.家と預金を合わせ、代償金を計算
家の合意価額が4,000万円、ほかに預金400万円と仮定しよう。相続人は、この兄弟二人だけで、遺言・借金はなく、特別受益・寄与分等の調整もないものとする。
特別受益は一定の贈与等を取り分に反映する仕組み、寄与分は遺産を守り増やす特別な貢献に応じた上乗せだ。ここでは、二人が各2分の1になる案を考える。
- 家4,000万円+預金400万円=遺産の合計4,400万円。
- 二人の目標とする取り分は、4,400万円÷2=各2,200万円。
- 兄が家4,000万円、弟が預金400万円を取得する。
- 弟には、2,200万円-400万円=1,800万円足りない。
- 兄が弟へ1,800万円を払えば、兄も4,000万円-1,800万円=2,200万円になる。
兄が払うのは家の半額2,000万円ではなく、この案では1,800万円。弟がすでに取得する預金も含めて、全体をそろえるからだ。
この例は、各2分の1へそろえる前提だ。相続人全員が合意すれば、法律上の割合である法定相続分と違う配分もできる。
寄与分等を主張するなら、根拠と取り分への反映を、別に話そう。同居だけで当然に多く取れたり、介護の対価を言い値で差し引けたりするわけではない。
4.代償金を払う資金を確かめる
和夫自身の預金は600万円だった。足りない分の見通しは、まだ立っていない。
「毎月少しずつでいいだろう」と言われても、彰は返事ができなかった。来春には学費を払う。兄が途中で病気になったら、どうなるのかも心配だ。
上の分割案で、兄の和夫が払う代償金を1,800万円とする。
遺産の預金400万円は弟が取る。兄の自己資金600万円は、それとは別の預金だ。
弟へ払う代償金
1,800万円
家を4,000万円と評価しても、その金額の現金が手元にあるわけではない。
兄の自己資金:600万円
↓
不足1,200万円
600万円は、税金・生活費等を別に残し、全額を支払いに使えるという仮定だ。使えない分があれば、不足は増える。
1,800万円−600万円=1,200万円。融資、ほかの財産の配分、分割払い等を比較する。不足分を借りられるか、弟が分割払いに同意するかは、別に確かめる。
分割払い・支払猶予は、受け取る人が同意すれば検討できる。
ただし、兄は支払い、弟は待つという関係が長く続く。家の名義を整理しても、家族のお金の関係が終わるとは限らない。
- 自己資金のうち、税金や生活費を残して実際に払える額はいくらか。
- ほかの財産を換金するなら、売れる時期と費用・税金を見込んだか。
- 融資を使うなら、審査と条件を確認し、無理なく返済できるか。
- 分割払いなら、初回の支払い、残額、各期日、払えない場合の扱いを決めたか。
- 担保などで支払いを確保する必要があるか。設定の手続や費用も確認したか。
融資は「相続した家があるから必ず借りられる」と決めつけない。和夫のように、家の維持費も負担するなら、返済後の生活まで試算する。遺産に現金が少ない場合や、税金・代償金(遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金)・生活費を分ける考え方も参考になる。
5.代償金の支払条件も書面に残す
二人が署名しようとした紙には、「和夫が家を受け取る」としかなかった。彰はペンを置いた。1,800万円を払うという話が、どこにも書かれていなかったからだ。
遺産分割協議書には、合意した分け方を書く。登記の表示等で不動産を特定し、取得者と、その代わりに誰へいくら払うかを記す。
期日、方法、評価の根拠、分割払いの各回の条件と、支払いを確保する方法も、具体的にしよう。
協議による遺産分割には相続人全員の合意が必要だ。協議書は合意内容を残し、登記や金融機関の手続に使う役割も持つ。登記などでは実印や印鑑証明書等を求められるが、実印がないということだけで、あらゆる合意が当然無効になるわけではない。合意の成立と、手続に必要な書類を分けて確認する。進め方は遺産分割協議(遺産の分け方を決める相続人同士の話し合い)の手順も参照してほしい。
税の計算と、現金以外で渡す時の注意
兄弟間でお金が動くため、彰は「兄からの贈与になるのか」と心配した。適切な代償分割として遺産の取得を調整するなら、通常の兄弟間の贈与と同じ扱いではなく、相続税の計算として扱う。
基本は、家等を取って代償財産を渡す人の課税価格から、その代償財産の価額を引く。受け取る人には、加える。
ただし、時価で代償金を決めた場合等は、税の計算に使う価額を調整する扱いがある。どんな時も、振込額をそのまま引けばよいとは限らない。
現金の代わりに、兄が以前から持つ土地を渡す時は、兄に譲渡所得の課税が生じる場合がある。現金を用意せずに済むことと、税がかからないことは別だ。
相続した家を後で売る時の取得費も、代償金を払っただけ、自動的に増えるわけではない。取得費は、売却の利益を求める際に引く、購入代金等だ。引き継ぐ取得費と、売却時の税も資金表へ入れよう。
相続税の申告・納税は、原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内だ。分け方の相談だけでは、期限は延びない。
未分割なら、その状況で申告・納税し、後の分割で、修正申告や更正の請求をする場合がある。更正の請求は、多く申告した税額等を直すよう求める手続だ。
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例には、分割・申告の条件がある。分割見込書を出せば、無条件で使えるわけではない。
払えなければ、分割方法を考え直す
和夫は、金融機関へ相談し、借入れの可能性と返済条件を確かめることにした。彰も、来春までに必要な額と、待てる額を書いた。支払いに使うお金が整うかは、まだ決まっていない。
資金を用意できなければ、ほかの財産を渡す、土地の一部を分ける、売却する等の案へ戻ろう。
合意できなければ、家庭裁判所の調停・審判も検討する。審判では、家の利用状況、相続人の事情、支払資金等から判断される。住む人の希望が、必ず通るとは限らない。
共有を検討するなら共有不動産の売却と同意、裁判所の判断が必要なら遺産分割審判を確認したい。分割方法の選び方から、もう一度比較してもよい。
代償分割は、家を切り分けずに取り分を調整するための仕組みだ。だからこそ、残す家だけでなく、お金を受け取る人の暮らしも考える。和夫が家に住み続け、彰も必要な資金を受け取れる。その両方を実際の支払条件にできるかが、二人の次の宿題になった。
次の手続と、未払い時の対応を確認
既に合意した代償金が期日になっても入金されない場合は、書面の種類から請求方法を確認する。 代償金不払いの請求・回収で詳しく確認できる。
ほかにも確認する手続がある場合は、不動産の登記・分割・処分の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。
よくある質問
代償分割の協議には全員の合意が必要か
遺産分割協議として行うには相続人全員の合意が必要だ。合意できない場合は、家庭裁判所の調停・審判を検討する。
代償金は家の評価額の半分でよいか
必ずしもそうではない。他の遺産の配分、各人の取り分、評価方法も含めて計算する。全員の合意により法定相続分と異なる配分も可能だ。
代償金を分割払いにできるか
受け取る人との合意により検討できる。金額・各期日・支払方法・払えない場合の扱いなどを決め、必要に応じて担保も考える。
現金の代わりに自分の土地を渡せるか
合意により検討できるが、もともと自分が持っていた不動産を渡す人には、譲渡所得の課税が生じることがある。
実印がなければ遺産分割の合意は無効か
実印がないことだけで自動的に無効とはいえない。ただし、登記などの手続には実印・印鑑証明書等を求められるため、手続に使える書類を整える必要がある。
話合い中なら相続税の申告を待てるか
話合い中でも申告・納税の期限が自動的に延びるわけではない。未分割での申告や、分割後の修正・更正の請求、特例の条件を確認する。



