経営者の親が亡くなったら:自社株・保証債務・会社の手続

会社経営者の親が死亡したときの相続|自社株・連帯保証・会社手続

経営者の親が亡くなったら、会社の財産と、親個人の遺産を分けて調べる。会社名義の預金や不動産は、原則として会社のものだ。

親個人については、自社の株式、会社へ貸したお金、会社から借りたお金、個人保証等を確かめる。

父の健一が亡くなり、娘の由佳は、会社の決算書に「役員借入金」を見つけた。会社の経理を手伝っていたが、父個人の貸し借りまでは分からない。

弟の慎は、父の借金なのかと心配した。母の紀子は、会社の預金も家族で分けられると思っていた。

以下は架空の家族と金額だ。会社の決算書の数字でも、父にとっての財産と負債は、向きが違う。

定款、登記、株主名簿、決算書、保証契約を集める。会社側では、新しい代表者を決める手続と、給与や仕入代金等の支払いを確認する。

同時に、個人の相続放棄等の3か月、準確定申告の4か月、相続税の10か月を、それぞれの起算点から管理する。

会社の財産と、親の遺産を分ける

名義だけでなく、契約と会計処理も確認して整理する。

確認対象 基本の扱いと確認資料
親が所有する自社株式・持分 親個人の相続財産
資料:株主名簿、確定申告書、定款
親から会社への貸付金 親の会社に対する債権として相続財産
資料:決算書の役員借入金内訳、金銭消費貸借契約
会社名義の預金・不動産・売掛金 原則として会社の財産
資料:決算書、通帳、登記事項証明書
会社名義の借入金 原則として会社の債務
資料:返済予定表、融資契約
親個人の連帯保証 契約内容により相続上の検討対象
資料:保証契約、銀行取引約定書
死亡退職金・弔慰金 会社の規程・決議と税法上の扱いを個別確認
資料:役員退職慰労金規程、株主総会等の議事録

会社の帳簿で「役員借入金」は、会社が役員から借りたお金を指す。「役員貸付金」は、会社が役員へ貸したお金だ。

ただし、項目の名前だけでは決めない。元帳、契約書、実際の入出金から、誰との貸し借りかを確認する。

例えば、父が会社へ貸した1,000万円と、会社が父へ貸した300万円では、父の権利と義務が逆になる。

誰が、誰へ返すお金か

契約と入出金から、父個人との貸し借りと確認できた架空の例。

会社の帳簿:役員借入金

1,000万円
会社 → 父へ返す

父にとっては
返してもらう権利

会社の帳簿:役員貸付金

300万円
父 → 会社へ返す

父にとっては
返す義務

会社側の帳簿なので、父個人から見た向きは逆になる。差額700万円へ自動的にまとめず、契約の当事者、返済条件、回収の見込み、相殺できるかを確かめる。株式や保証の負担とも別に調べる。

父の貸付金は、株式とも別の財産だ。会社から返してもらえるか、返済条件と回収の見込みを調べる。

会社の借金として株価へ影響することと、父個人の債権として相続の対象になることは、分けて確認する。債権は、お金の支払い等を求める権利をいう。

死亡直後、会社側で確認すること

父が代表取締役や唯一の取締役なら、会社の判断や日々の支払いが止まるおそれがある。

相続税の計算を終えるまで待たず、次の順番で現状を調べる。

  1. 登記事項証明書と定款を確認する:役員構成、代表権、取締役会の有無、株式の譲渡制限を確認する。
  2. 株主名簿と遺言書を確認する:故人の持株数、議決権割合、株式を引き継ぐ人の指定を確認する。
  3. 新たな代表者を選ぶ手続を確認する:機関設計と残存役員の状況に応じて、株主総会・取締役会等の決議と変更登記を進める。
  4. 金融機関・主要取引先・許認可を確認する:口座権限、融資の期限利益、許認可上の届出、電子証明書などを確認する。
  5. 会社の資金繰りを確認する:給与、税・社会保険、仕入代金、借入返済の直近日程を一覧にする。

相続人であることと、自動的に会社の代表者になることは別だ。印鑑やネットバンキングを事実上引き継ぐだけで済ませず、会社法上の選任手続と登記を確認する。

株式の評価と、権利を使う人は別

非上場株式には、取引所で付く株価がない。相続税の評価では、まず取得する人が、経営を支配する同族株主等に当たるかを調べる。

その上で、会社の規模、業種、資産の内容等に応じて評価方法を選ぶ。

  • 類似業種比準方式:類似業種の上場会社の株価と、配当・利益・純資産を基礎に評価する。
  • 純資産価額方式:会社の資産・負債を相続税評価に置き換えて1株当たり価額を計算する。
  • 併用方式:会社規模に応じて両方式を一定割合で組み合わせる。
  • 配当還元方式:一定の少数株主等について、配当を基礎に評価する。

土地保有特定会社、株式等保有特定会社、開業後3年未満の会社などは通常会社と異なる扱いがある。「中小企業だから安い」「赤字だからゼロ」とは限らない。

評価と並行して、株主として誰が権利を使うかも確かめる。分割までの間、株式が複数の相続人の共有になる場合がある。

会社法106条では、共有株式の権利を行使する一人を決め、会社へ氏名等を通知するのが原則だ。会社の同意による例外もあるが、同意だけで共有者内部の権利関係まで解決するわけではない。

株価を計算している間にも、株主総会の日は来る。当面の権利行使者と、最終的に株式を受け取る人を、分けて検討する。

非上場株式を兄弟で相続|準共有の議決権・会社法106条・遺産分割

株式を共同相続しても、分割前から各自が半数を単独で持つとは限らない。当面、誰が会…

遺産分割・トラブル
非上場株式を兄弟で相続|準共有の議決権・会社法106条・遺産分割

保証の相続と、税の控除は別

父個人の保証の負担も、契約内容や性質によって、相続の対象になることがある。会社が返済を続けていても、保証契約と残高を早く確かめる。

相続を受けるか、放棄等をするか考える期間は、原則、自分のために相続が始まったと知った時から3か月だ。調査が終わらないなら、期間内に家庭裁判所へ期間を延ばす申立てを検討する。

後から借金が分かった場合も、期間をいつから数えるか等を個別に確認する。もう放棄できない、と即断しない。

保証の種類も重要だ。「個人根保証」は、一定の範囲の取引で生じる、不特定の債務を個人が保証する契約をいう。

民法465条の4第1項3号では、保証人が死亡すると、保証の対象となる借金の元本が確定する。元本は、利息等を除いた元の金額だ。原則として、その時までに生じた借金を基にする保証の負担を引き継ぐのであり、死亡後の新しい借金まで自動的に引き継ぐわけではない。

通常の保証・連帯保証と根保証を分け、保証の対象、上限の極度額、締結日と変更日を契約書で確認する。改正法が適用されるか、古い契約に特別な扱いがあるかも確かめる。

法律上、保証の負担を相続することと、相続税の計算で遺産から差し引けることは別だ。

相続税基本通達14-3では、保証債務は原則、債務控除しない。保証人が払っても、本来の借主へ返してもらえることが考えられるからだ。

例外は、本来の借主が返済できず、保証人が払う必要があり、借主へ返還を求めても回収の見込みがない場合等だ。その返済不能な部分を差し引く扱いを確認する。

したがって、借入先・契約番号・残高・担保・保証の種類・会社の返済可能性を一覧にし、金融機関への確認と会社の資金繰り分析を行う。後継者への保証の切替えを当然の前提にせず、中小企業庁が案内する「経営者保証に関するガイドライン」も踏まえて金融機関と協議する。

慎が見つけた保証の残高が2,000万円でも、その全額を父の遺産から必ず差し引けるわけではない。

会社が返済できるか、保証人として父の負担が必要か、会社へ返還を求めて回収できるかを調べる。将来の負担の可能性と、今の相続税で控除できる額を分ける。

会社の経営を続ける由佳が、母と弟の保証まで自動的に消せるわけでもない。銀行へ契約・残高・相続後の取扱いを照会し、保証の整理や見直しは合意の内容まで確かめる。

個人と会社、それぞれの期限を確認

期限の目安 手続と、起算点・注意点
原則3か月 相続放棄・限定承認
起算点と注意:自己のために相続開始があったことを知った時から。調査が終わらない場合は期間伸長の申立てを検討
原則4か月 準確定申告・納付
起算点と注意:相続が始まったと知った日の翌日から。故人に所得税の確定申告義務がある場合。法人の申告とは別
原則10か月 相続税の申告・納付
起算点と注意:相続が始まったと知った日の翌日から。未分割でも期限は延びない

会社側には、役員変更登記、税・社会保険、許認可、融資契約上の届出など別の期限がある。個人の相続期限と会社の期限を一つの工程表にまとめると、見落としを減らせる。

相続税の申告期限は10か月|未分割・期限後申告・延長の扱い

相続税の申告・納税は原則10か月以内。遺産の分け方が決まらないというだけで、自動…

相続手続き
相続税の申告期限は10か月|未分割・期限後申告・延長の扱い

事業承継税制の条件と負担

事業承継税制には、条件を満たす後継者が非上場会社の株式等を相続や遺贈で取得した場合に、その株式等の相続税の納付を待ってもらう制度がある。都道府県知事の認定等が必要だ。

猶予を受けた後も、後継者の死亡等、一定の事由が生じて初めて免除される。最初から無条件に税がなくなる制度ではない。

2026年10月26日に国税庁の公表を確認した。特例措置の特例承継計画は2027年9月30日までに提出し、対象となる贈与・相続は2027年12月31日までだ。別に一般措置もある。

会社、先代経営者、後継者の条件、認定、担保、申告時の添付書類、継続届出を確認する。株式を譲渡したり、会社の状況が変わったりすると、猶予されていた税を納める必要が生じることもある。

「自社株が高いから使う」と即断せず、通常申告の税額、納税資金、後継者の意思、将来のM&Aや廃業可能性まで比較する。

資料を集め、四つの項目に分ける

動き始める前に、手元に何があって何がないかを確認する。

  • 会社の定款、履歴事項全部証明書、株主名簿、株券発行の有無が分かる資料
  • 直近3期以上の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳
  • 金融機関別の借入残高、返済予定表、融資契約、保証契約、担保資料
  • 故人の所得税申告書、財産債務調書、通帳、証券資料、生命保険資料
  • 役員退職慰労金規程、生命保険契約、許認可・主要契約の一覧
  • 遺言書、株式や事業承継に関する合意書、特例承継計画・認定関係書類

資料が集まったら、次の4本に分けて担当と期限を決める。

  1. 会社の運営を止めない手続
  2. 相続するか放棄等を検討するための債務調査
  3. 自社株評価と相続税
  4. 後継者と遺産分割

会社の帳簿で借入金か貸付金かが分かれば、父個人の権利と返済義務を分けて調べられる。会社の負債の内容は、自社株の評価にも関係する。

手が止まっている項目を整理すると、弁護士、税理士、司法書士の誰に、何を確かめるかが分かりやすい。

会社の手続と個人の相続を混ぜず、分かる資料から、四つの項目へ分けてみよう。

由佳は会社の給与等の支払いと代表者の手続、慎は保証契約、紀子は父個人の財産一覧を確認することにした。

会社への連絡担当と、最後に株式や貸付金を受け取る人は別だ。1,000万円の債権、300万円の返済義務、2,000万円の保証を、同じ会社の借金としてまとめない。

ほかにも確認する手続がある場合は、会社・株式・事業承継の関連ガイドから目的に合う説明を探せる。

よくある質問

会社の預金も、親の遺産になるか

会社財産と個人遺産を区別する。代表者の選定と個人の相続は並行して扱う。

保証は死亡後の新規借入にも及ぶか

保証の種類・締結日等による。個人根保証は死亡による元本確定の扱いと改正法の適用を確認する。

保証の調査が3か月で終わらないときは

原則の熟慮期間内に期間伸長の申立てを検討する。後で判明した事情についても期間を数え始める時点を個別に確認する。

事業承継税制の計画提出期限は

2026年10月26日に確認した計画提出期限は2027年9月30日だ。対象贈与・相続の期限2027年12月31日とは別だ。

この記事は一般的な情報を説明するものだ。個別の判断は、相続関係、財産、契約、取引記録などの資料を示して弁護士・税理士へ確認したい。

この記事の読み方

相続の制度は、家族の状況と財産の中身で結論が変わります。

法律・税金・手続きを合わせて読む

税金の計算と、家族の合意・登記・支払資金をあわせて考えるための一般的な解説です。

個別事情で変わる点を重視

期限、特例、評価、分割方法はケースによって変わります。本文では一般的な考え方を示し、個別判断が必要な箇所は留保しています。

最終更新日

最終更新:

文章・図・表示の変更を含む。参照資料の日付や制度の適用時期は、本文で確認してください。

TOP

電話でお問い合わせ LINEで簡単お問い合わせ