会社経営者の親が亡くなったときは、親個人の相続と会社の経営継続を分けて確認します。親が所有する自社株式や会社への貸付金、個人で負った保証債務は相続に関係しますが、会社名義の預金・不動産・借入金は原則として会社自身の資産・負債です。
最初に行うのは、定款・登記事項証明書・株主名簿・直近の決算書・借入契約と保証契約の確認です。相続放棄等の3か月、準確定申告の4か月、相続税の10か月を並べ、代表者の選定や金融機関対応と同時に進めます。
会社経営者が亡くなると、「会社そのものを相続する」と考えがちです。しかし、株式会社と株主個人は別の主体です。相続人が引き継ぐのは、原則として故人が個人で持っていた株式や債権・債務であり、会社名義の財産を直接分けるわけではありません。
この区別を曖昧にすると、会社預金を遺産として扱ったり、逆に自社株や会社への貸付金を遺産から漏らしたりします。会社を止めないための手続と、相続人としての判断を同時に進めることが重要です。
最初に「会社のもの」と「親個人のもの」を分ける
まず、名義だけでなく契約と会計処理も確認して、次のように整理します。
| 確認対象 | 基本的な扱い | 確認資料 |
|---|---|---|
| 親が所有する自社株式・持分 | 親個人の相続財産 | 株主名簿、確定申告書、定款 |
| 親から会社への貸付金 | 親の会社に対する債権として相続財産 | 決算書の役員借入金内訳、金銭消費貸借契約 |
| 会社名義の預金・不動産・売掛金 | 原則として会社の財産 | 決算書、通帳、登記事項証明書 |
| 会社名義の借入金 | 原則として会社の債務 | 返済予定表、融資契約 |
| 親個人の連帯保証 | 契約内容により相続上の検討対象 | 保証契約、銀行取引約定書 |
| 死亡退職金・弔慰金 | 会社の規程・決議と税法上の扱いを個別確認 | 役員退職慰労金規程、株主総会等の議事録 |
会社の決算書に「役員借入金」があれば、会社が親から借りていた可能性があります。反対に「役員貸付金」があれば、親が会社に返済すべき債務を負っていた可能性があります。勘定科目だけで結論を出さず、元帳と契約・実際の資金移動を照合します。
死亡直後に会社側で確認すること
親が代表取締役や唯一の取締役であった場合、相続税の計算より先に、会社の意思決定と日常業務が止まるおそれがあります。次の順番で現状を把握します。
- 登記事項証明書と定款を確認する:役員構成、代表権、取締役会の有無、株式の譲渡制限を確認します。
- 株主名簿と遺言書を確認する:故人の持株数、議決権割合、株式の承継先に関する指定を確認します。
- 新たな代表者を選ぶ手続を確認する:機関設計と残存役員の状況に応じて、株主総会・取締役会等の決議と変更登記を進めます。
- 金融機関・主要取引先・許認可を確認する:口座権限、融資の期限利益、許認可上の届出、電子証明書などを確認します。
- 会社の資金繰りを確認する:給与、税・社会保険、仕入代金、借入返済の直近日程を一覧にします。
相続人であることと、当然に会社の代表者になることは別です。印鑑やネットバンキングを事実上引き継ぐだけで済ませず、会社法上の選任手続と登記を確認します。
自社株式は「誰が取得するか」と「いくらか」を別々に決める
非上場株式には取引所の株価がありません。国税庁の評価では、まず取得者が同族株主等に該当するかを判定し、会社規模や業種、資産構成等に応じて評価方式を選びます。
- 類似業種比準方式:類似業種の上場会社の株価と、配当・利益・純資産を基礎に評価します。
- 純資産価額方式:会社の資産・負債を相続税評価に置き換えて1株当たり価額を計算します。
- 併用方式:会社規模に応じて両方式を一定割合で組み合わせます。
- 配当還元方式:一定の少数株主等について、配当を基礎に評価します。
土地保有特定会社、株式等保有特定会社、開業後3年未満の会社などは、通常会社と異なる扱いがあります。「中小企業だから安い」「赤字だからゼロ」とは限りません。
また、相続開始から遺産分割までの株式は複数の相続人の共有状態になり得ます。共有株式の権利行使では、会社法106条により、原則として権利を行使する者1人を定めて会社に通知する必要があります。経営権の空白を避けるには、評価作業と並行して、誰に議決権を集中させるかを検討します。
非上場株式を兄弟で相続|準共有の議決権・会社法106条・遺産分割
親が保有していた非上場会社の株式を兄弟で共同相続すると、遺産分割が終わるまで株式…
連帯保証は相続判断と相続税計算を分けて考える
経営者個人が会社借入を保証していた場合、保証債務は契約内容や債務の性質に応じて相続の対象になり得ます。融資残高が大きくても、会社が返済を続けている限り保証履行が直ちに発生するとは限りません。しかし、相続放棄等の熟慮期間を過ぎてから保証が判明すると、選択肢が狭くなります。
個人根保証契約では、保証人の死亡により元本が確定します(民法465条の4第1項3号)。相続人が承継するのは、原則として元本確定時までに生じた主債務を基礎とする保証債務であり、死亡後に新たに生じる主債務まで当然に承継するわけではありません。通常の保証・連帯保証と根保証では結論が異なるため、契約書で保証の種類、極度額、対象債務を確認します。
一方、民法上の相続対象になることと、相続税で債務控除できることは同じではありません。国税庁の相続税基本通達14-3は、保証債務を原則として控除せず、主債務者が弁済不能で保証人が履行しなければならず、求償しても返還を受ける見込みがない場合などに限って控除するとしています。
したがって、借入先、契約番号、残高、担保、保証の種類、会社の返済可能性を一覧にし、金融機関への確認と会社の資金繰り分析を行います。後継者への保証の切替えを当然の前提にせず、中小企業庁が案内する「経営者保証に関するガイドライン」も踏まえて金融機関と協議します。
3か月・4か月・10か月の期限を同時に管理する
| 目安となる期限 | 主な手続 | 注意点 |
|---|---|---|
| 原則3か月 | 相続放棄・限定承認 | 自己のために相続開始があったことを知った時から。調査が終わらない場合は期間伸長の申立てを検討 |
| 原則4か月 | 準確定申告・納付 | 故人に所得税の確定申告義務がある場合。法人の申告とは別 |
| 原則10か月 | 相続税の申告・納付 | 死亡を知った日の翌日から。未分割でも期限は延びない |
会社側には、役員変更登記、税・社会保険、許認可、融資契約上の届出など別の期限があります。個人の相続期限と会社の期限を一つの工程表にまとめると、見落としを減らせます。
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法人版事業承継税制は「納税猶予」であり、手続が続く
一定の後継者が、都道府県知事の認定を受けた非上場会社の株式等を相続・遺贈で取得した場合、要件のもとで相続税の納税が猶予され、後継者の死亡等の一定事由で免除される制度があります。
2026年9月1日現在、特例措置の特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日です。一般措置もあります。ただし、会社・先代経営者・後継者の要件、認定、担保提供、申告書への書類添付、継続届出があり、株式の譲渡や会社の状況変化によって猶予税額の納付が必要になる場合があります。
「自社株が高いから使う」と即断せず、通常申告の税額、納税資金、後継者の意思、将来のM&Aや廃業可能性まで比較します。
会社経営者の相続で集める資料
- 会社の定款、履歴事項全部証明書、株主名簿、株券発行の有無が分かる資料
- 直近3期以上の決算書、法人税申告書、勘定科目内訳明細書、総勘定元帳
- 金融機関別の借入残高、返済予定表、融資契約、保証契約、担保資料
- 故人の所得税申告書、財産債務調書、通帳、証券資料、生命保険資料
- 役員退職慰労金規程、生命保険契約、許認可・主要契約の一覧
- 遺言書、株式や事業承継に関する合意書、特例承継計画・認定関係書類
資料を集めたら、①会社の運営を止めない手続、②相続するか放棄等を検討するための債務調査、③自社株評価と相続税、④後継者と遺産分割、の4本に分けて担当と期限を決めます。
よくある質問
会社名義の預金や不動産も、経営者の相続財産になりますか
原則として会社名義の資産は会社の財産であり、経営者個人の遺産ではありません。相続の対象になるのは、経営者個人が持っていた自社株式、会社への貸付金、役員報酬や退職金の未払請求権などです。名義と実態が一致しているか、決算書や契約書も含めて確認します。
経営者の連帯保証も相続されますか
経営者個人が負っていた保証債務は、契約内容や債務の性質に応じて相続の対象になり得ます。個人根保証では死亡により元本が確定するため、通常の連帯保証と区別し、極度額と死亡時点の対象債務を契約書で確認します。ただし、相続税の計算で直ちに全額を債務控除できるわけではありません。国税庁は、主債務者が弁済不能で、保証人が履行しなければならず、求償しても返還を受ける見込みがない場合などに限って控除を認めています。
非上場の自社株式はどのように評価しますか
相続税評価では、取得者が同族株主等かどうか、会社規模、業種、資産構成などを判定します。一般には類似業種比準方式、純資産価額方式またはその併用を使い、一定の少数株主等には配当還元方式を使います。単純に決算書の純資産を株数で割ればよいわけではありません。
事業承継税制を使えば自社株の相続税は必ずゼロになりますか
必ずゼロになる制度ではなく、一定要件のもとで納税を猶予し、その後の事由により免除される仕組みです。会社・先代経営者・後継者の要件、都道府県知事の認定、担保、申告後の継続届出などがあります。特例措置の計画提出期限は2027年9月30日、適用対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日とされていますが、個別の適用可否は早急な確認が必要です。
最初に確認すべき期限は何ですか
まず、相続放棄・限定承認を検討する熟慮期間は原則3か月です。被相続人について準確定申告が必要なら原則4か月、相続税の申告・納付は原則10か月です。代表者変更など会社側の手続も別に進むため、死亡直後から会社と個人の手続を並行して整理します。
※本記事は2026年9月1日時点の一般的な情報です。会社の機関設計、株主構成、保証契約、税制の適用要件によって結論は変わります。具体的な判断は弁護士・税理士・司法書士等へご相談ください。



