相続財産の調査は、家にある書類と入出金の記録を集め、預金・不動産・証券・保険・借金を分けるところから始める。財産がどこに、どれだけあるかが、分割や税金の判断の土台になる。
最初から全部を専門家へ任せる必要はない。先に期限と調べる目的を確認し、自分で集める資料と、判断を頼む仕事を分けよう。
母が亡くなり、由美は自分で資料を集めたいと考え、兄の修司は税務も含めて専門家へ依頼したいと言う。母の家と預金は分かるが、証券口座と保証債務はまだ未確認だ。以下は説明用の架空の家族で、調査の範囲と費用を具体化しながら進める。
相続財産の調査は、金額の大きな財産だけを探す作業ではない。保証債務、未払金、名義と実態が違う財産、既に引き出された預金なども確認し、分かったことと未確認のことを一覧に残す。
最初に確認する期限と、避けたい処分
民法915条は、相続の承認・放棄の前に財産を調査できると定めている。相続放棄等を検討する期間は、原則として自己のために相続が始まったことを知った時から3か月である。家族の話合いや銀行からの回答待ちだけで、自動的に期間が延びるわけではない。
調査しても判断できない場合は、期限内に家庭裁判所へ期間の伸長を申し立てる方法がある。収集できた資料、未回答の照会先、追加調査に必要な期間を整理する。裁判所の案内は、申立前に取得できない戸籍等を後から補充できることも示している。
借金が多い可能性があるうちは、故人の預金を使ったり、車や不動産を売却したりする前に確認する。相続財産の処分は単純承認とみなされる場合があり、「調査だけ」のつもりで承認・放棄の選択に影響する行為をしないようにする。
家にある書類から照会先を絞る
| 手掛かり | 分かること・次の確認先 |
|---|---|
| 通帳、銀行アプリの案内、振込票 | 銀行・支店、給与や年金の入金、保険料、ローン、証券会社への送金等。 |
| 固定資産税の通知、権利証、登記書類 | 不動産の所在地、地番、家屋番号、共有持分。法務局や市区町村で確認する。 |
| 取引残高報告書、配当金の通知 | 証券会社、株式・投資信託、特別口座や株主名簿管理人の手掛かり。 |
| 保険証券、控除証明書 | 保険会社、契約者、被保険者、受取人。契約内容は保険会社に確認する。 |
| 確定申告書、賃貸借契約、事業帳簿 | 不動産収入、事業資産、売掛金、借入れ、保証やまだ払っていない費用。 |
| 請求書、督促、カード明細 | 借金、分割払、税・公共料金等の未払、継続中の契約。 |
見つけた資料は原本のまま保管し、コピーや画像に整理番号を付ける。スマートフォンやパソコンを初期化する前に、契約通知や取引記録が残っていないか確認する。他人のアカウントへ無断で入り込むのではなく、各事業者の相続人向け窓口から照会する。
預金は口座のある金融機関と死亡日の残高を分けて調べる
心当たりのある銀行へ、相続人であることを示す戸籍や本人確認資料等を用意して照会する。口座が見つかったら、死亡日を基準にした残高証明書と、必要な期間の取引履歴を請求する。今の残高だけでは、生前の財産や死後の払戻しは分からない。
銀行内に複数支店の預金がないか、定期預金、外貨預金、投資信託、貸金庫、借入れもないかを尋ねる。照会できる範囲と必要書類、手数料は銀行ごとに確認する。
口座が見つかり、払戻しや名義変更を進める段階では、銀行の相続手続きに必要な書類を、遺言・遺産分割・調停審判の別に確認すると準備しやすい。
マイナンバーに紐づく口座をまとめて照会する制度
相続時預貯金口座照会は、故人が生前にマイナンバーを紐づけた預貯金口座を、預金保険機構を通じて調べる制度だ。受付を委託された金融機関で申し込み、他の相続人全員の同意は不要とされている。
デジタル庁の公式案内では、死後10年まで照会でき、故人のマイナンバー自体の提出は不要としている。故人の本人特定事項と法定相続人(法律で相続人になると決められた人)・包括受遺者等であることを示す資料、申請者の本人確認資料が必要だ。受付先で現行の手数料と回答までの期間を確認する。
この照会で分かるのは、銀行名・支店名・口座番号などで、残高は分からない。マイナンバーを紐づけていない口座は対象外だ。
紐づけていても、情報が一致しない場合や金融機関の回答状況などにより、結果に載らないことがある。「該当なし」だけで財産がないとは決めず、手元の資料を使った銀行への個別照会も進める。
取引履歴は相続人一人でも開示請求できる
故人の子が両親の預金取引の開示を求めたところ、信用金庫から、他の相続人全員の同意がないことを理由に拒まれた例がある。裁判では、預金契約上の地位を相続したことが決め手となり、共同相続人(同じ人の遺産を一緒に相続する人たち)の一人でも取引経過の開示を求められると判断された。
これは預金の全額払戻しを一人で請求できるという意味ではない。また、保存されていない記録が必ず取得できるわけでもない。必要な口座と期間を特定し、取得できなかった期間や銀行の回答も残す。
不動産は所有不動産記録証明と地域の資料を組み合わせる
2026年2月2日から、所有不動産記録証明制度が始まった。本人や相続人等が、氏名・住所等を検索条件として、その人が所有権の登記名義人となっている不動産を一覧で確認する制度だ。
ただし、旧住所・旧姓の不一致、未登記の建物、検索対象外の記録等により、すべてが判明するとは限らない。転居が多い場合は以前の住所も調べ、固定資産税の通知や市区町村の名寄帳と突き合わせる。共有の私道や課税額の少ない土地など、通知書だけでは見落としやすいものにも注意する。
不動産を特定した後は登記事項証明書で持分や抵当権を確認する。固定資産税評価額、相続税評価額、実際の売却見込額は目的が違うため、一つの金額をすべての場面で流用しない。
証券会社が分からないときは、ほふりの開示を使う
上場株式等の口座開設先が不明なら、証券保管振替機構(ほふり)の登録済加入者情報の開示請求が選択肢になる。法定相続人等が必要書類を郵送して請求する。
分かるのは証券会社や信託銀行等の口座開設先に関する情報で、保有銘柄、株数、残高、取引履歴は各社へ改めて確認する。非上場会社の株式や、制度の対象外の資産まですべて分かる仕組みではない。旧姓・旧住所の情報も確認し、株主名簿や会社からの通知も調べる。
ほふりの費用は請求者の立場や提出資料、氏名・住所の検索条件の数によって異なる。公式案内では結果送付まで時間がかかる旨も案内されているため、期限の直前まで待たず、申請時の費用と受付状況を確認する。
生命保険は契約の有無と、受取人の権利を別に確認する
保険会社が不明な場合は、生命保険協会の生命保険契約照会制度を利用できる場合がある。会員会社の対象契約の有無を確認する制度で、契約が見つかった後の内容確認や請求は各保険会社で行う。
2026年10月25日に確認した公式案内では、システムは再開しており、WEB申請と書面申請を選べる。料金、必要書類、対象契約、回答までの期間は、申請時の案内で確認する。
古いシステム停止のお知らせだけで、申請方法を決めないようにする。
支払済み・解約済み・失効済みの契約等は調査対象に含まれず、すべての過去の保険が分かるわけではない。受取人が指定された死亡保険金は、通常、その受取人固有の財産となる一方、相続税ではみなし相続財産となる場合がある。遺産分割の財産一覧と税金を計算するときの一覧を混同しない。
借金・保証債務は、信用情報だけで完結させない
借入先の通知、契約書、通帳の返済記録、事業帳簿等を確認する。CIC、JICC、全国銀行個人信用情報センターなどの開示も手掛かりになるが、機関ごとに加盟会社と登録情報が違う。個人間の借金、未払税金、すべての保証債務を一括で証明するものではない。
例えばCICの死亡開示案内では、開示できるのは報告書作成時に登録されている情報で、登録元が死亡を確認すると契約情報を削除すると説明している。開示結果が空欄だから借金がないとは判断できない。
事業をしていた人や、親族・会社の保証人になっていた可能性がある人は、契約先や帳簿の調査を優先する。調査中に3か月が近づいたら、すべての回答を待つ前に期間伸長等を検討する。
由美たちの家が民事上3,000万円、預金が1,200万円と分かったとしても、その合計4,200万円を相続税の計算にそのまま使うわけではない。土地・建物を税務上どう評価するか、保険、生前贈与の加算、借金などを別に調べる。
また、信用情報に載っていない保証債務もある。「該当なし」と「借金や保証がないと確認できたこと」は区別する。
由美は書類収集と照会先の整理を担当し、修司は相続税の見積りと未確認の保証契約を相談する。依頼の目的を分ければ、同じ資料を何度も取得したり、登記だけの依頼で交渉まで終わると思ったりする行き違いを減らせる。
専門家は、困っている作業に合わせて選ぶ
- 弁護士:財産隠し、使い込み、資料の開示拒否、取得者や遺産の範囲の争い、交渉・裁判等を含めて整理する。
- 税理士:相続税申告が必要かどうか、評価、名義預金、過去の贈与、税金を計算するときの債務控除等を調べる。
- 司法書士:相続登記、登記に必要な戸籍や不動産資料の収集等を相談する。
- 行政書士等:紛争のない範囲で、資格上扱える書類作成や収集を相談する。
資格名だけで一式を依頼せず、調査対象、照会件数、取得する資料、費用、報告方法、交渉や申告まで含むかを確認する。不動産の評価や外国の財産など、別の専門家との連携が必要な場合もある。
調査結果は「未確認」を残した一覧にまとめる
財産名、所在・金融機関、名義、死亡日の残高等、裏付け資料、現在の管理者、未確認事項を記録する。回答待ちの銀行を「残高ゼロ」と入力せず、「照会中」と区別する。
相続税は、原則として相続が始まったと知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。国税庁の案内に沿って、分割が未了でも期限の対応を進める。調査、分割、税務で同じ資料を使えるように、原本と回答日を残しておくことが次の手続を早める。
端末やメールに暗号資産の手がかりがある場合は、暗号資産の調査・移し替え・評価・相続税申告の手順も確認する。交換業者の口座と自己管理ウォレットで、探す資料や手続先を分けて整理したい。
二人は、家と預金だけで調査完了とせず、証券会社と契約先の回答欄を空けた一覧を使うことにした。期限を先に押さえ、自分たちで集めた資料を専門家へ渡す。未確認事項が見える形なら、調査を誰にどこまで頼むかも決めやすくなる。
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よくある質問
相続財産は自分で調べられるか
手元資料の整理、相続人としての金融機関への照会、公的な証明書の取得などは自分で進められる。紛争や税務評価、期限の判断がある部分は専門家へ相談する。
他の相続人の同意がなくても預金履歴を取れるか
共同相続人の一人は故人名義の預金取引経過の開示を単独で請求できる。ただし、必要資料、保存期間、請求範囲等の確認が必要になる。
マイナンバーの照会で全銀行の残高が分かるか
分からない。生前にマイナンバーを紐づけた口座が対象で、回答に残高は含まれない。判明した銀行への照会と、手掛かりに基づく調査を併用する。
生命保険契約照会はオンラインでできるか
2026年10月25日に確認した公式案内ではWEB申請が再開しており、書面申請も選べる。費用、対象契約と必要書類は申請前に確認する。
調査が3か月で終わらないときはどうするか
相続放棄等の判断に必要な調査が終わらない場合、期限内に家庭裁判所へ熟慮期間(相続を受けるか、放棄するかなどを決めるための期間)の伸長を申し立てる方法がある。回答待ちだけで期間が自動的に延びることはない。
本記事は一般的な情報を示すものである。具体的な手続や税務は、亡くなった日、財産、資料などを確認して判断する必要がある。



