相続した不動産の評価を調べるときは、まず「何のための価格か」を決める。相続税を計算する価額、売却できそうな価格、遺産分割で家族が合意する価額は、必ずしも一致しない。
架空の家族で考えよう。父を亡くした淳は、実家の査定書を見て、「相続税の申告にも、この金額を使えばよいのでは」と思った。
妹の美咲は固定資産税の通知書を持ち、「こちらはずっと低い」と言う。母の律子は、税の計算より、今の家で暮らせるかが気がかりだった。
この家族では、土地と建物を分けて調べる。死亡した年の資料、実際の使い方、誰がどんな権利を持つかを確かめる。
そのうえで税額を試算し、母の生活と分割の希望を話す。低い価格を一つ選べば終わり、とはならない。
まず、四つの価格の目的を分ける
| 資料・価格 | 主な用途と注意 |
|---|---|
| 実勢価格・売却査定 | 売却等の検討。査定額で必ず売れるとは限らない。 |
| 公示価格 | 標準地の正常な価格として公表。個別物件の相続税評価額そのものではない。 |
| 路線価 | 相続税等の宅地評価に使う標準的な単価。形状等の調整が必要。 |
| 固定資産税評価額 | 固定資産課税台帳の価格。倍率方式の土地や家屋評価等の基礎になる。 |
相続税では、原則、取得した時の時価で評価する。土地・家屋については、財産評価基本通達等を確かめる。
一般的な宅地は、路線価方式か倍率方式を使う。だが、全部の不動産を、二つの数字だけで計算できるわけではない。
淳の査定書は、売却の検討には役立つ。だが、相続税の土地評価を、省略できる資料ではない。
美咲の通知書も、書かれた税額や課税標準額と、評価に使う価格の欄を、取り違えないようにしよう。
誰が不動産を取得し、ほかの人へ代償金をいくら払うかは、別の問題だ。代償金は、遺産を多く受け取る人から、ほかの相続人へ渡す調整のお金である。
税の価額を、自動的に家族間の清算価格にはできない。何のための評価かが違うと、同じ「実家の値段」を話していても、議論が食い違う。
路線価方式は、年分・場所・補正を確認
死亡年の路線価図を開く
国税庁の財産評価基準書で、死亡した年分、都道府県、対象地の位置を調べる。
その年の路線価等がまだ公開されていなければ、公表後に当年分で確かめ直そう。前年の数字を、そのまま確定値にはしない。
住所と、登記上の地番は違うことがある。
路線価図の位置を、登記事項証明書、公図、地積測量図等と照らし合わせよう。違う道路や隣の土地の数字を読めば、計算自体が合っていても、結果が変わる。
230Cは、単価と借地権割合を分ける
路線価の数字は、千円単位だ。「230」は、1平方メートル当たり23万円を示す。「C」は、借地権割合70%の記号だ。
自分で使う所有地を、理由なく23万円の70%にしてよい、という意味ではない。
借地権、底地、貸家建付地など、どの権利を誰が持ち、どのように使われているかで計算が違う。詳しくは借地権の相続税評価、底地の評価で整理している。
土地の形や道路の影響を反映する
路線価に面積を掛けるだけでは、終わらない。
地区区分と奥行に応じた補正、横や裏の道路による加算、不整形、間口が狭い・奥行が長い場合等を、条件と計算方法に従って確かめる。
間口が何メートル未満なら補正するかは、地区等で違う。「2メートル未満だけ」とは決めない。
二つの道路に接している場合も、玄関側や、安い方を勝手に正面とはできない。決められた方法で判断する。
路線価図の数字は、その土地を評価する出発点だ。土地の使いやすさが、どこも同じではないため、個別の条件を反映する。
減額だけを探さず、必要な加算も確かめよう。
路線価から相続税を計算する手順|土地評価・補正・税額の違い
路線価から求めるのは、まず土地の相続税評価額だ。その数字が、そのまま税額や売却価…

実家の土地4,600万円という試算を作る
説明用に、淳の実家の土地を、父が単独で所有し、自分で使う宅地200平方メートルとする。
路線価は23万円、適用する補正の結果は1、ほかの加算や権利の減額はないという仮定だ。
この場合、土地は23万円×200平方メートル=4,600万円となる。
さらに、自分で使う戸建て家屋の固定資産税評価額を600万円、ほかの調整はないものとする。
土地と建物の合計は、5,200万円だ。売却査定と同じとは限らず、この数字が納税額になるわけでもない。
ほかの財産は預金1,200万円だけで、債務等、加算する贈与、特例等を、すべて考慮しない単純な例なら、財産合計は6,400万円だ。
法定相続人は母と子二人の3人とする。基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円で、差額1,600万円が課税遺産総額になる。
法定相続人は、法律で相続人になると決められた人だ。
この1,600万円も、納税額ではない。
法定相続分で税の総額を計算し、その後に実際の取得割合へ配分し、税額控除等を使う段階がある。法定相続分は、法律で決められた相続の割合だ。
律子の住居に使う土地の特例を適用できるかも、この単純な例とは別に判断する。
倍率方式は、使う評価額の欄を確認
倍率方式の宅地は、原則、固定資産税評価額に、その地域の評価倍率を掛ける。
例えば、評価額1,000万円、倍率1.1なら、基本となる価額は1,100万円だ。
通知書の課税標準額は、住宅用地の特例等が反映され、固定資産税評価額と違う場合がある。
欄が分からなければ、所在市区町村の課税台帳等で、価格を確かめよう。資料を取り寄せる時は、土地か家屋か、対象年と所有者を特定する。
路線価図で数字が見つからないだけで、倍率方式とは決めない。
接する道路と地域の指定を調べ、路線価地域か倍率地域かを確かめよう。標準路線価等を検討する場合もある。
また、農地・山林・原野等は地目や区分ごとの規定を確認する。「郊外ならほぼ同じ倍率計算」と一括りにはできない。山林は純山林・中間山林・市街地山林の評価も参照したい。
建物とマンションを分けて確認
一般的な自用家屋は、固定資産税評価額×1.0で評価する。自用家屋は、自分で使う家屋のことだ。
ただし、貸家や建築中の家屋等は、それぞれの規定がある。戸建ての自宅の説明を、全部の建物へ当てはめない。
マンションの一戸が、敷地全体を所有するわけではない。土地全体の評価、その住戸の敷地権の持分、建物の評価を分ける。
ローン残高も、土地の単価から直接引くものではない。
2024年1月1日以後に、相続等で取得した一定の居住用区分所有財産には、新しい評価方法がある。
対象と除外を確かめ、土地と家屋の両方へ、区分所有補正率を掛ける場合がある。「建物は固定資産税評価額を写すだけ」とは限らない。
借入金は、債務控除の段階で、死亡時の債務や確実性等の条件を調べる。
団体信用生命保険で返済される住宅ローン等もある。帳面の残高を、そのまま全部引けるとは考えない。
資産の価額と借金の確認を分けると、計算の根拠を追いやすくなる。
相続税の不動産評価は何から?固定資産税通知書・査定額・申告の判断
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土地の補正と特例は、違う段階で使う
土地の形等を反映する補正と、小規模宅地等の特例は、違うものだ。
特例は、一定の住居や事業の基盤を引き継ぐ負担を軽くするため、条件を満たす土地等の課税価格を減らす制度である。
特定居住用宅地等は、330平方メートルまで80%減額する。
先ほどの土地4,600万円の全体が対象で、条件を全部満たすと仮定すれば、特例後は920万円だ。
建物600万円や預金まで80%減らす計算でも、税額を直接80%減らす計算でもない。
本文と同じく、土地4,600万円・家屋600万円・預金1,200万円だけの家族で考える。借金等の控除や贈与の加算等はなく、土地全体が特定居住用宅地等の面積限度内で、特例の全条件を満たす仮定だ。
特例前:4,600万円
80%減額した後
↓
土地は920万円
これは土地部分の価額であり、納める税額ではない。
土地:920万円
家屋:600万円
預金:1,200万円
↓
合計2,720万円
建物や預金まで、80%引く計算ではない。
この例の基礎控除4,800万円を下回るが、特例を使うための相続税申告は必要だ。現金が増えたり、実際の売値が920万円になったりする制度でもない。
取得者が配偶者、同居親族、所定の別居親族のどれかで、条件は違う。全員に同じ居住継続の条件があるわけではない。
分割と申告も必要だ。特例で納税額がゼロになる場合も、申告を確かめる。
美咲は初め、「母が取得すれば全部解決する」と思っていた。
だが、母の生活費、管理、次の相続もある。税額だけで取得者を決めず、住まいと資金、家族の希望を並べて考えることにした。
広い宅地は、地積規模の大きな宅地の評価を使える場合がある。だが、面積以外にも条件がある。
2018年以後の相続等に、旧広大地評価をそのまま使うことはできない。「形が悪いから一律10〜20%減」という見積りも避けよう。
土地の相続税評価を確認する|補正・小規模宅地等の特例と注意点
土地の相続税評価は、標準的な宅地の路線価等に、その土地の形状、利用、権利関係など…

資料・期限と、分割の希望をそろえる
- 対象不動産の登記・公図・測量図と利用状況を整理する。
- 死亡年の路線価図・倍率表、固定資産税評価額を確認する。
- 評価単位、面積、補正、権利関係と建物の取扱いを確認する。
- 特例の条件を受け取る人ごとに判定し、他の財産等を含めて税額を試算する。
- 申告・納付までの現金と、家族の分割案を確認する。
一筆が必ず一つの評価単位になるとは限らず、使い方や取得の状況等も確認する。実際の面積と登記の面積が違う可能性もあるが、すべての土地で新たな測量が自動的に必要という意味ではない。分け方と費用は土地の分筆と相続の手順で整理している。
必要な相続税の申告・納付は、原則、相続開始を知った日の翌日から10か月以内だ。
評価や分割で意見が合わなくても、自動的には延びない。未分割での申告・納付、分割見込書、後の更正の請求等を確かめよう。
淳は計算の根拠、美咲は不足資料を一覧にし、律子の希望も、同じ打合せに持ち寄った。
評価の目的は、一つの数字で家族を説得することではない。税金と生活の判断に使う材料を、それぞれそろえることだ。
国内の方法を直接使えない財産は、海外不動産の評価も確認したい。土地・家屋は国税庁No.4602、マンションはNo.4667に取扱いが掲載されている。
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よくある質問
路線価はどこで調べるか
国税庁の財産評価基準書で無料で閲覧できる。死亡した年分、対象地の位置、接する道路を確認し、補正等を反映して評価する。
路線価が見つからなければ倍率方式か
それだけでは決まらない。地域の指定や接道を確認する。倍率方式の宅地は原則として固定資産税評価額に所定の倍率を掛ける。
建物は固定資産税評価額を使えばよいか
一般的な自用家屋は固定資産税評価額に1.0を掛ける。貸家等や、2024年以後の一定の居住用区分所有財産には別に確認すべき取扱いがある。
小規模宅地等の特例で何が減るか
条件を満たす宅地等の課税価格が減る。特定居住用宅地等は330平方メートルまで80%減額するが、建物や預金、税額自体を一律に80%減らす制度ではない。
分割が済まなければ相続税申告を待てるか
通常の10か月期限は自動的には延びない。未分割申告と納付、後から特例を使うための手続を確認する。



