遺産分割は、誰と何を分けるかを確かめ、受け取る財産、金額、支払いや実行の条件を決める手続だ。合意が難しければ、家庭裁判所の手続も検討する。
以下の由佳・修平・健は、説明用の架空のきょうだいだ。母はすでに亡く、父の相続人は三人だけとする。
父を亡くして8か月、長女の由佳は、実家を兄の修平が取得する案で話が進んでいると思っていた。しかし弟の健は、提示された家の価額に納得していなかった。修平には父と暮らした家へ住み続けたい事情があり、健には現金を受け取りたい理由がある。「仲良く分けよう」という言葉だけでは、同じ案を思い浮かべていなかった。
法律が相続分だけでなく財産の性質や生活状況等も考慮するのは、土地や住まいを単純な割り算だけでは配分できないからだ。由佳たちは、意見が合わないことを家族関係全体の問題へ広げず、何の事実と数字が違うのかを整理することにした。
「決める手続」と「財産を分ける方法」を分ける
調停:裁判所で合意を目指す
審判:裁判官が判断する
代償:多く取得する人がお金で調整する
換価:売ってお金で分ける
共有:持分を定め共同で持つ
調停を使うことだけで、家を売ると決まるわけではない。協議で共有にする義務もない。手続と取得案を分けて考え、合意や裁判所の判断で具体化する。
一緒に相続した遺産を、具体的に誰のものにするかを決める。ただし、相続に関わる財産を、すべて同じように分けるわけではない。
受取人を指定した死亡保険金、借金等の支払義務、分割前に生じた家賃等は、何が対象になり、どう扱うかを別に確かめる。
由佳は、三人が同じ「方法」という言葉で違う話をしていたと気づいた。まず話合いを続ける手続と、家を残す・売るという取得の案を別々の欄へ書く。調停を検討することと、売却に同意することも同じではない。
最初に確認するのは、参加する人と遺産の範囲
戸籍等で相続人を確かめ、遺言、遺言を実行する遺言執行者、遺言で財産を受け取る人、相続分の譲渡等も調べる。
必要な当事者全員の、有効な合意が要る。三人だけだと思っていても、ほかに子がいれば、三人の署名だけで適法な協議になるわけではない。
遺言があれば、その内容と有効性、対象財産、執行者等の権限を先に確認する。相続人だけの都合で、第三者の権利や執行を無視して分け直してよいとは限らない。
親と未成年の子がともに相続人で、利益がぶつかる場合等は、子のために手続をする特別代理人の選任等を検討する。
判断能力に問題があれば、署名できるというだけで有効に合意できるとは決めない。成年後見等の利用と、代理できる範囲や利益相反の確認が必要になる場合がある。
相続人が行方不明でも、その人を抜いて分けることはできない。不在者財産管理人の選任と、その権限を超える行為を行うための家裁の許可等を検討する。
長く生死が分からなければ失踪宣告が問題になる場合もある。ただし、連絡がつかないだけで死亡したと扱う制度ではない。
由佳は相続人の関係図を作り、修平は通帳と不動産の資料を集めた。健にも同じ資料を共有し、実家だけでなく預金、証券、借入れ、担保等を一覧にする。相手が資料を持っていないことと、説明を受けても反対していることは、区別して対応したい。
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遺産分割協議は、相続人全員の有効な合意で、誰がどの財産を受け取るかを決める話合い…

協議は全員の合意を具体的な条件へ落とし込む
全員の有効な合意があれば、法定相続分(法律で決められた相続の割合)と異なる分け方も可能だ。ただし、第三者の権利や税務まで自由になるわけではない。対面の一回の会議が必須ではなくても、同じ内容に合意していることを確かめ、記録する必要がある。
家の価額に反対があるなら、評価の方法、時点、想定する家の状態をそろえよう。
実際に分ける遺産は、通常、分割時の価額で考える。特別受益・寄与分による調整や、相続税の計算では、時点や目的が違う。固定資産税評価額が、そのまま売れる価格や、きょうだい間の精算額になるとは限らない。
合意は、その後の登記、銀行の払戻し、代償金の支払、売却と分配まで実行できる内容へ具体化する。誰が家をもらうかだけでなく、誰がいつ何をするかを残す。修平が払うと言った金額に、資金の裏付けがあるかも確認する。
書面を自分たちで作ることは可能だが、署名・実印があればどんな記載でも有効というわけではない。財産の特定や提出先の必要書類を確認する。相続人が自分の手続をすることと、無資格者が他人の法律・税務を業務として扱うことも別の問題だ。
現物・代償・換価・共有を、同じ財産で比べる
実家は分割時の価額で3,000万円、預金は600万円、合計3,600万円としよう。遺言、借金、特別受益・寄与分等の調整はなく、三人が各1,200万円を取得することを目指す例だ。
どの財産を受け取るかで、必要な支払資金も変わる。
現物分割は、家、預金、土地等をそのまま割り当てる方法だ。複数の土地があれば別々に取得する案や、土地を分筆する案もある。ただし、分筆は接道、形状、利用制限、費用と分割後の価値を確認する。単に面積を三等分しても価値は等しくならない。
修平が家、由佳と健が預金各300万円を取るだけでは、3,000万円・300万円・300万円に分かれる。
同じ額を目指すなら、例えば修平が二人へ各900万円、合計1,800万円を払う案がある。修平も差引き1,200万円となるが、1,800万円を払う資金が必要だ。
代償分割は、住まいや事業を分散させず、ほかの人の取得額と調整する方法だ。
分割払いなら、各回の額・支払日、遅れた場合の扱い、担保等を確かめる。取得後の税、修理費、生活費も考えて払えるかを確認しよう。不動産で支払う場合や、時価と税の評価が違う場合の扱いも、実行前に確かめる。
換価分割は、家等を売り、費用を精算してお金で分ける方法だ。3,000万円で売れ、費用は180万円とすると、預金600万円も合わせて3,420万円。三人各1,140万円となる。
ただし税を引く前の額で、180万円も説明用に置いた費用だ。父の取得費や取得時期、譲渡所得と特例を確かめるまで、最終的な手取りとは扱わない。
売却なら最低価格、値下げ、期限、修平の転居、立替え、担当者の報告、代金の分配を決める。法定相続分以外で分ける有効な合意もあり、売却代金が必ず法定相続分どおりになるわけではない。
共有分割は、持分を決めて共同で持つ方法だ。共同で使う目的がある場合も選択肢になる。
住む人、使用対価、税や修理費、家賃、将来の買取りや売却を話そう。全体を売るには原則全員の合意が要るが、保存・管理・変更では条件が違う。すべてを全員同意や人数の多数決で決めるわけではない。
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協議が難しい場合には、調停・審判を検討する
反対が出たから、すぐにすべての手段がなくなるわけではない。争っている財産、価額、受益、寄与、支払条件などを整理し、家裁の遺産分割調停を検討する。調停は相手を罰する手続ではなく、双方の事情や資料を踏まえて合意を目指す手続だ。
調停が不成立なら、原則として自動的に、裁判官が判断する審判へ進む。
財産の種類・性質と、相続人の年齢、職業、心身の状態、生活状況等も考慮する。暮らしや希望を無視して決めるわけではないが、希望した結論が必ず採用されるわけでもない。
期間は争点、人数、調査、鑑定等によって変わり、何か月で必ず終わるとはいえない。遺言の効力、遺産への帰属、使い道の分からないお金等は、別の民事手続が必要になる場合もある。すべてを遺産分割だけで処理できるとは考えない。
由佳は、健の反対を「わがまま」と一括りにせず、評価の資料が違う点と、受取時期の希望を分けた。資料をそろえても一致しない部分は、調停等で何を判断してほしいかを具体化する。協議で急いで譲れば、常に最もよい解決になるわけではない。
分割、税、登記、特別受益・寄与分の期間を区別する
相続税の10か月は、遺産分割を必ず終える一律の期限ではない。しかし、分割には法律上の期限が一切ない、何年放置しても同じ条件だ、という説明も適切ではない。
特別受益・寄与分は、死亡から10年経過後の分割では、原則として考慮しない。期間内に家裁へ請求した場合等の例外がある。
満了前6か月以内に、やむを得ない事情で請求できず、その事情がなくなってから6か月を経過する前に請求した場合の例外も確認する。
2023年4月1日前の相続では、死亡から10年を経過する時と2028年3月31日のうち、遅い方までの請求に関する経過措置がある。期間経過後も、全員が合意して考慮する場合は別に考える。
相続税の申告が必要なら、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内に申告・納付する。
未分割でも、法定相続分等で取得したものとして計算する。分割が終わらないだけで、期限が延びたり、納税を待てたりするわけではない。
未分割財産では配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例に制約がある。分割見込書、申告期限後3年以内の分割、一定の承認、分割後の更正の請求等の条件と各期限を確認する。見込書を出せば、どの家族にも必ず特例を適用できるわけではない。
相続登記は、自分のために相続が始まったことと、その不動産の所有権を取得したことを知った日から、原則3年以内に申請する。2024年4月1日前の相続で、すでに取得等を知っていた場合は、原則2027年3月31日までだ。
未分割の間の相続人申告登記等と、分割後の登記義務は、別に確かめる。相続放棄や遺留分の期間も、協議中というだけでは止まらない。
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集める書類と費用を、手続ごとに確認する
相続人を確認する戸籍、遺言、財産目録、家や土地の登記・評価、預金残高・取引、証券、借金、特別受益・寄与分等の資料を集めよう。
登記や銀行へは、協議書、印鑑証明書、住所の資料等も、提出先に応じて確認する。協議、家裁、銀行で、同じ一組の書類が必ず必要とは限らない。
調停の申立てに使う収入印紙は、亡くなった人一人につき1,200円だ。郵便料等は、別に確かめる。
戸籍の取得、評価・鑑定、登記、売却、専門家への依頼には、それぞれ費用がかかる。印紙代が、解決までの総額になるわけではない。
報酬は一律の相場だけで判断せず、相談、交渉、調停、審判、登記、税務のどこまで含むか、追加費用と実費、支払時期を確認する。争いは弁護士、税務は税理士、登記は司法書士等、それぞれの業務範囲に応じて相談する。
書面がそろうまで相談を待つ必要はない。由佳たちは、相続関係と財産、各人の希望、期限、未確認事項を一枚へまとめた。修平の支払見込み、健が比べたい査定、由佳が調べる預金を分け、次の確認日を決めた。
署名の後は、合意どおり実行できたかを確かめる
代償金が払われない場合に、債務不履行だけで分割を一方的に解除し、自動的に元の共有へ戻せるとは考えない。支払請求や強制執行等が問題になる。全員の合意による解除・再協議とは区別する。
相続人の漏れ、判断する能力、重要な勘違い、だまされたり脅されたりした事情等によって、無効や取消しが問題になる場合はある。
ただし、後から不満が残った、高く売れたというだけで、自由にやり直せるわけではない。第三者の権利と、再分割の税の扱いも確かめる。
由佳、修平、健の間で必要だったのは、早く署名を集めることだけではなかった。同じ財産を同じ資料で比べ、住まいと受取金を実現できる条件にすることだった。合意の後も、登記、払戻し、代償金、分配と申告が済んだかを確認していく。
関連する手続を、次の段階まで確認する
合意後も支払いや登記の実行が残る。代償金が払われない場合の手続も確認しておく。 取決め後の代償金回収で詳しく確認できる。
協議から離れたい相続人がいる場合は、譲渡・相続分放棄・家裁の相続放棄を区別する。 相続分の譲渡・放棄の比較で詳しく確認できる。
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